EV車載電池の選択肢が拡大 日本は長距離志向で三元系が優勢も市場多様化
電気自動車(EV)の性能や価格を左右する車載電池技術が急速に進化し、多様な選択肢が登場している。産業技術総合研究所の辰巳国昭参与と倉谷健太郎・電池技術研究部門副研究部門長へのインタビューを通じて、電池技術の現状と今後の展望を探る。
低価格化を牽引するリン酸鉄リチウム(LFP)電池の台頭
近年、手頃な価格のEVが増加し、市場全体で価格下落が進んでいる。倉谷氏は「EV価格の約3分の1をバッテリーが占めるため、電池価格の下落がEV価格低下に大きく影響している」と指摘する。特に、リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン電池(LFP電池)が低価格で供給され、市場を活性化させているという。
辰巳氏によれば、日本でも宅配便トラックやトヨタ自動車の中国向けEVなどでLFP電池の採用が始まっている。しかし、日本では依然としてニッケルやコバルトを使用した三元系電池が主流だ。辰巳氏は「三元系電池は原料コストが高いが、LFP電池は製造プロセスの効率化や歩留まり向上により競争力を高めている」と説明する。
安全性とエネルギー密度のバランス
LFP電池は三元系電池に比べ熱分解の基点温度が高く、安全性が優れているとされる。辰巳氏は「負極は同じため完全な安全解決策ではないが、安全性の面で有利な点は事実だ」と述べる。
一方、エネルギー密度では三元系電池が上回る。倉谷氏は「日本の自動車メーカーは東京と大阪間の500キロなど長距離走行を重視し、エネルギー密度の高い三元系電池を選択している」と分析。LFP電池は低コストだがエネルギー密度で劣るため、用途に応じた選択が重要だと指摘する。
しかし、中国のBYDが開発した「ブレードバッテリー」は、セルから直接パックを構成する方式で軽量化と体積削減を実現し、三元系電池に匹敵する性能を達成している。倉谷氏は「モジュールを省略した設計が競争力を高めている」と評価する。
EV市場における日本の戦略と新技術の展望
世界のEV市場では中国の存在感が増し、日本は遅れを取っているように見える。倉谷氏は「日本は部品メーカーを含む製造業を守りつつEV市場を狙っており、単純な遅れではない」と説明。トヨタの「bZ4X」のようにコスト削減に成功した例もあり、慎重な対応が続く。
今後の技術として、全固体電池とナトリウムイオン電池が注目される。倉谷氏は「全固体電池はハイエンド向けでコストが高く、量産は限定的になる可能性がある」と予測。辰巳氏も「生産プロセス開発は進むが、2020年代中の普及は難しい」と見通す。
ナトリウムイオン電池については、資源豊富で急速充電が可能な利点があるが、エネルギー蓄積量が少ない課題がある。倉谷氏は「充電時間を重視する用途では普及の可能性がある」と述べる。
専門家プロフィール
- 倉谷健太郎:1976年生まれ。神戸大学大学院修了、博士(工学)。産業技術総合研究所研究員などを経て現職。福井県出身。
- 辰巳国昭:1962年生まれ。京都大学大学院修了。工業技術院などを経て、電気安全環境研究所顧問、産業技術総合研究所参与。大阪府出身。



