静岡県御前崎市にある中部電力浜岡原子力発電所で発覚したデータ不正問題は、発覚当初から「再稼働ありき」の中部電力の経営方針が引き起こしたとの見方が強まっている。2026年1月の御前崎市議会原子力対策特別委員会で、市議から「原発にかかるコストの削減や再稼働を早期に、というあせりがあったのでは」と問われた豊田哲也原子力本部長は「もしかしたらあったかもしれない」と否定しきれなかった。
完全停止から15年、大きな転機
浜岡原発は2011年の東日本大震災以降、全面停止が続き、2026年で15年を迎える。この間、中部電力は再稼働を目指して安全対策を進めてきたが、今回の不正により再稼働への道は大きく後退した。現在、海抜22メートルの防潮堤をさらに6メートルかさ上げし、28メートルにする計画があるが、未実施のままである。
安全対策費の膨張
中部電力は浜岡原発の再稼働に必要な安全対策費を約4千億円と見積もっているが、以前から上振れは避けられないとみられていた。これまでに投じたのは約2800億円で、防潮堤のかさ上げ工事などは未実施だ。東北電力女川原発(宮城県)では、防潮堤の巨大化などで対策費が約7100億円に上る見通しであり、浜岡原発でもさらなるコスト増が懸念される。
不正は、施設の耐震設計の根幹である「基準地震動」の策定過程で発生した。本来想定すべきだった地震の揺れを過小評価した疑いがある。元原発メーカー技術者で原子力コンサルタントの佐藤暁さん(68)は「基準地震動が上がるにつれ、工事費は100億円規模であっという間に増えうる」と指摘し、コスト増の可能性を警告する。
収益ゼロでも膨らむコスト
中部電力への取材や有価証券報告書によると、2011年度から2025年度までの原発関連の支出は毎年1千億円程度で、累計約1兆5千億円に上る。この中には人件費や修繕費、点検業務を担う下請け業者への委託費が含まれ、発電収益がないにもかかわらず膨大なコストがかかっている。
電力会社の会計に詳しい龍谷大学の大島堅一教授(環境経済学)は「浜岡はずっと出血状態」と指摘する。不正により再稼働のための審査は「白紙」となる中、仮に再稼働できても、運転期間の上限から年数は短くなるとみられ「投じた費用に見合った利益は出ないだろう。廃炉にした方がいい」と断じる。
廃炉か再稼働か、いばらの道
原発は廃炉が決まると、これまで投じた設備や核燃料といった資産の価値がゼロになり、財務面へのマイナスの影響は避けられない。燃料費がかさむ火力への依存も長引き、電源の脱炭素化に向けた戦略の見直しも迫られうる。大島教授は「原子力から撤退すると経営責任を問われるため、経営陣にちゅうちょがあるのではないか」とみる。
再稼働を目指すも、諦めるもいばらの道だが、選択を先延ばしにはできない。一方で、政府が原発と同様に最大限活用を目指す再生可能エネルギーは、静岡県内でも拡大に向けた動きが続いている。



