俳優の岩澤侑生子氏は、台湾での研修をきっかけに、日本統治時代の歴史と向き合い、台湾演劇の持つ政治的・歴史的な熱量に強い衝撃を受けた。2026年2月には、旧日本海軍燃料工廠を題材にしたリーディング公演を東京で上演。今後は、日本語のできる台湾人キャストによる日本統治時代の日本語劇の上演を構想している。
台湾で知った日本の植民地支配
岩澤氏は、2024年から2025年にかけて約1年間、台湾に滞在し、現地の演劇活動に参加した。その中で、台湾がかつて日本の植民地であったことを、それまで深く考えたことがなかったと振り返る。「台湾にいると、日本のことを考え続けさせられる。歴史的な背景が日常に溶け込んでいる」と語る。
特に印象的だったのは、台湾の現代演劇が政治や歴史、アイデンティティと強く結びついている点だ。「台湾の演劇を知ることは、台湾という社会が何を記憶し、何を問い続けているのかを知ることでもある」と岩澤氏は指摘する。
旧日本海軍燃料工廠を題材にした作品
岩澤氏は、台湾・新竹にある旧日本海軍燃料工廠の跡地でパフォーマンスを行い、その後、2025年の大晦日に実家で資料を整理中、祖父が軍需工廠を経営していたことを偶然発見。この個人的な発見が、作品の構成に大きな影響を与えた。
作品では、工廠の煙突から立ち上る「煙」を歴史そのもののイメージとして採用。「煙はにおいがあり、目に見えるが、同時に対象を覆い隠し、すぐに形を変える。見えているようで見えず、触れようとすると逃げていく歴史の姿を重ねた」と説明する。
このリーディング公演は、2026年2月に東京で上演され、多くの観客を集めた。
今後の構想:台湾人キャストによる日本語劇
岩澤氏は、大学院で研究していた日本統治時代の日本語劇を、台湾人キャストで上演したいと考えている。「日本語劇は、台湾人を皇民化するための教育劇として使われた面がある。非常に意図的に皇民化を促す内容が書かれている。だからこそ、現在の台湾人の俳優が演じることで、歴史を追体験し、問い直す企画にしたい」と語る。
また、台湾における移行期正義に関する演劇の上演状況をまとめることも目標の一つ。台湾の現代演劇は日本ではほとんど紹介されておらず、翻訳も少ない。岩澤氏は研修で築いた人脈を活かし、台湾の劇団や作品を日本に紹介する仕事にもつなげたいとしている。



