スモーキングルーム第289回:砂糖煮の娘の葛藤と成長
スモーキングルーム第289回:砂糖煮の娘の葛藤

砂糖煮の娘が接客をすると、まず顔を見られる。あら可愛らしい、と微笑んでくれる婦人もいたが、紳士の中には砂糖煮の娘が椅子を引こうとすると「いや、結構」と断る者もいた。予想外の反応をされると、砂糖煮の娘の動きはぎこちなくなった。すると、いつの間にか傍に煙がいて、「失礼致します」となめらかに椅子を引く。客は見えない糸で操られるように椅子に座り、煙も砂糖煮の娘の存在も忘れたように連れと話しだすのだった。

金ボタンと煙の連携

少し離れたところで金ボタンが自分の客と談笑しながら目だけでこちらを窺っている。煙は「問題ない」と視線で返し、二人はさっと各々の持ち場に意識を戻す。普段は三人で喋っていても、仕事中に目で会話できるのは金ボタンと煙だけで、砂糖煮の娘は置いていかれてしまう。それが悔しかったし、客からの拒絶は減点にならないことも悔しかった。

特別な存在への憧れ

そして、本当はわかっていた。たとえ、同じくらい背が伸びても、同じような筋肉に体が覆われても、金ボタンや煙のようにはなれないことを。彼らは特別だった。今までそれに気付かなかったのは、煙の言う通り、自分が「ホテルマンの真似事」をしていたからだった。

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彼らのようになれない、と思うと、砂糖煮の娘は投げやりな気持ちになるのを止められなかった。誰より上手にジャムを煮ることができても、どうせ裏の仕事しか満足にできないのだと暗く否定的な気分になってしまう。煙も裏にまわることがあるが、裏側を取り仕切る「背中の総支配人」という渾名は、表も完璧にこなせるが故の称号なのだった。

女性としての葛藤

同じ歳くらいの新入りのホテルマンとも、もう体型が違ってきている。日に日に、男性用の制服の胸や尻がきつくなっていく。片手で持てる皿の数も、すぐに追い越されてしまう気がした。

「あなたを初めて見た時、希望がわいたの」と、砂糖煮の娘はザックを見た。「女性と見れば博愛主義の金のパパが、あなたにはそうじゃなかった。女らしさなんて跳ね返せるんだと思った。女扱いされたくなかったら、おおよそ女がしなそうなことをすればいいんだって。でも、接客はやっぱり難しい……女らしさを捨てても、男にはなれないんだもの。女は損だわ」

涙と謝罪

薄青の瞳から涙がこぼれて、菫の花を濡らした。「いけない!」砂糖煮の娘は飛びあがり、「ごめんなさい! 顔を洗ってくるわ!」と部屋を飛びだしていった。

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