京都市北区で京友禅工房「應壽(オージュ)」を営む友禅師・佐伯昭彦さん(44)は、舞妓が夏に着る裾引きの衣装に彩色を施している。鮮やかな青の絹地に、白く染め抜かれた打ち上げ花火が華やかに描かれる。
佐伯さんは毛先が斜めの「片羽刷毛」に黄色やオレンジ、青紫やピンクの染料と水を含ませ、水分で濃淡をつける「ぼかし染め」で花火を色づけていく。花街の衣装を制作して25年になる。
舞妓の装いと調和を重視
佐伯さんは「舞妓さんは白塗りの化粧で日本髪を結い、豪華な帯を締める。着物の柄や配色は全体との調和を一番に心がけています」と語る。
元禄期の扇絵師・宮崎友禅斎が確立したとされる京友禅は、絵画調の模様を描き、金箔や刺しゅうを施すのが特徴。芸舞妓は京友禅の着物に西陣織の帯を締めるのが定番の装いだ。
10年かけたチューニング
佐伯さんは高校卒業後、父・利昭さん(78)が構えた應壽で修業を始めた。利昭さんは彩色専門の職人で、京友禅の制作は30もの工程に分業されている。しかし生産量は1971年度をピークに減少。利昭さんは「将来は職人が不足し、分業が成り立たなくなる」と案じ、佐伯さんに彩色以外の工程の習得も促した。
佐伯さんは19歳の頃、老舗呉服店「おか善」(京都市中京区)の会長・岡本晃さん(86)に声をかけられ、花街の衣装制作を依頼された。「伝統文化の中心で生きる舞妓さんや芸妓さんの衣装を作ってみたい」と決意した。
花街では古典的な意匠が好まれ、図案を描いて岡本さんに見せると「違う」と却下され、配色も「もう少し、はんなりと柔らかく」「重みがない」と返された。佐伯さんは「要求と作るものを一致させるチューニングに10年くらいかかった」と振り返る。
和歌に着想を得た図案
2007年には同じく友禅師の妻・加代子さん(48)と結婚。年間に仕上げる着物の8割ほどが花街の衣装で、京都五花街の一つ・祇園甲部の舞踊公演「都をどり」では、舞妓の衣装も手がける。これまで作った着物は約600点。
最近は和歌を題材にすることが多く、来春用に準備する舞妓の衣装の題材は、百人一首にある光孝天皇の「君がため春の野に出でて若菜つむ わが衣手に雪はふりつつ」。和歌を中心に春の草花と吉祥文様の「雪輪」、流水やチョウを配する。
佐伯さんは「京都に住んで、ここで昔の人が詠んだ歌に着想を得て図案を描く。より深い伝統文化を探究し、表現できたら」と語り、技と美意識に磨きをかけている。



