俳優の岩澤侑生子氏は、台湾の演劇に触れる中で、日本の植民地支配の歴史について無知だったことを痛感したと語る。研修先の飛人集社(フライング・グループ・シアター)での経験や、台湾の現代演劇が持つ政治性や歴史への向き合い方について、岩澤氏が詳細に語った。
オブジェクトシアターの可能性に開眼
岩澤氏は、研修先であった飛人集社について、「人形や物を使って上演する『オブジェクトシアター』に長年取り組んでいる、非常に勢いのある劇団」と評価する。以前は人形劇を子ども向けと偏見を持っていたが、台湾の伝統的な布袋戲(ポテヒ)や飛人集社の作品に触れ、その印象が変わったという。「人形や物は、非常に洗練された表現媒体であり、大きな可能性を秘めています」と語る。
人間の俳優が演じると生々しすぎる場面、例えば虐殺や迫害、悲劇的な歴史を扱う場合に、オブジェクトシアターの手法が有効だと岩澤氏は指摘する。「人形や物を介すると、表現は象徴的になり、観客は自分の想像力を投影しやすくなる。物自体は変化せず、呼吸もせず、感情も表に出さないが、位置を変えたり人との関係をデザインすることで、物語が動き出し観客の想像力を刺激する。そこに大きな魅力がある」と述べた。
台湾演劇の中心にある政治、歴史、アイデンティティ
台湾の現代演劇には歴史を扱う作品が多いと岩澤氏は指摘する。「台湾演劇では、歴史をどのように見るか、自分たちのアイデンティティをどのように考えるかという問いに積極的に取り組んでいる劇団が多いと感じます」と語る。
具体例として、烏犬劇場(ザ・ブラックドッグ・シアター)の「戦争三部作」を挙げた。岩澤氏が見た第二作は、戒厳令時代にベトナム難民の船が金門に流れ着き、国民党兵士によって殺害された実際の事件をモチーフにしている。「ただ歴史を上演するだけでなく、現代の観客に向けたメッセージが込められていた。セリフも非常によく、移行期正義の演劇を考える上で重要な作品だと思いました」と評価した。
岩澤氏は、台湾文学研究者の赤松美和子氏が「台湾文学の中心には政治がある」と書いていることを引用し、「台湾演劇も同じだと思います。政治、歴史、アイデンティティ、そして『私は何者なのか』という問い。そうしたものが、どの作品にも何らかの形で表れているように感じます」と述べた。
日本と台湾の演劇環境の違い
日本と台湾の演劇環境について岩澤氏は、「共通しているのは、演劇で生きていくのはどちらも大変だということです」と語る。俳優の多くはアルバイトをしながら活動しており、演劇だけで生活している人は限られているという。助成金に関しても、日本には文化庁やアーツカウンシル、台湾には国家文化芸術基金会や文化部の助成があり、類似点があると指摘した。
一方で、台湾には国立大学に演劇科が複数ある点が日本と大きく異なるという。この違いが、演劇教育や人材育成に影響を与えている可能性がある。



