CM俳優として活躍する朝見心(40)が、映画「嘘もまことも」(磯部鉄平監督)で映画初主演を果たした。迷える大人たちが「嘘」を通じて本当の自分を見つけていく温かな人間ドラマで、役への戸惑いを抱えながらも監督への全幅の信頼を寄せた撮影を振り返った。
「なんで私が」から始まった初主演
インテリアショップで働く田中梨沙(朝見)の穏やかな日々は、母の急死と恋人で店長の翔也(ミネオショウ)の浮気発覚で一変する。休職した梨沙は、親友の美優(桜木梨奈)に連れ出され、他人の求めに応じて家族や役割を演じる「代行業」のアルバイトを始める。嘘がつけない梨沙が、〝優しい〟嘘をつく仕事にのめり込んでいく再起の物語だ。
同種の代行業を題材にしたハリウッド映画「レンタル・ファミリー」(HIKARI監督)が2月に公開され話題を呼んだ。対する本作は低予算で派手さはないが、温かさではひけを取らない佳作となっている。
監督との出会いと撮影の日々
京都出身で、カットモデルにスカウトされたことがきっかけで芸能界に入った朝見。「タレントCM起用社数ランキング」で2年連続で上位(6位、7位)に入るなど、主にCMで活躍している。映画初主演の話が舞い込んだきっかけは、三重県で開かれた映画祭で、磯部監督がたまたま朝見の出演シーンを目にしたことだった。
「上映会に監督も自分の作品を出してて。開始に遅刻して、そろっと入った瞬間に、たまたま私のシーンが流れてたらしくて」
若者を描く映画を撮ってきた磯部監督が、大人の女性を主人公にしたいと考えていたときだったという。しかし、そんなことは知らなかった朝見。依頼が来た当初は「なんで私なんやろって。ちょっと怖いなぐらいの気持ちで」。だが監督の過去作を見て魅了され、「もう、すぐに、やりたいですって」と出演を決めた。
足かけ5年の製作と成長
演じた梨沙は、我慢して自分を押し殺す人物。思ったことをすぐ口にするという朝見自身とは正反対で、役柄を「最後まで理解しきれなかった」と明かす。感情を込めて泣かせようとする芝居を「そういうの、いらんいらん。さらっとやって」と磯部監督に止められたこともあった。「梨沙をちゃんと描けてるのかっていう不安が、ずっとついて回ってた」と朝見は明かす。
だが、大阪出身で関西を拠点とする磯部監督は「大丈夫やで」とひょうひょうと受け止め続けた。長い芝居を一気に撮り、撮ったものは、ほぼそのまま使う。緊迫した場面でも「大丈夫やで。(自分が)OKって言ったら大丈夫やで」と笑い続ける。
「当初、台本は毎日変わった。増えたり、減ったり、切ったり」と苦笑いする朝見だが、「俳優を信用してくれているんだなっていうのが、すごく伝わってきた」と信頼を寄せた。
映画は後半で「3年後」へと物語が飛ぶが、実際に約2年半、撮影は中断した。「3年後っていうのが、ほんまに3年たっている。嘘もまこともっていっているけど、そこはほんまなんです。その3年で出演者が皆、成長し、すんなり役として戻ってきてました」
撮影が終わってから完成までさらに2年以上を費やし、製作に足かけ5年。「期間だけでいえば超大作」と振り返る。
遠回りの末にたどり着いた場所
京都出身の朝見は、幼い頃から吉本新喜劇に親しみ、中学生の頃、真剣に吉本入りを検討したこともあったが、大学を出て大阪で就職。営業の外回り中にカットモデルにスカウトされ、25歳で上京し、芸能界へ。2児の母。当面はCMの現場を大切にしながら、いつかまた、じっくりと芝居に向き合える作品に挑みたいという。
「ちゃんと撮ってもらって、映画やドラマってやっぱりいいなって」と、今回の初主演が大きな転機になった。さらに「遠回りしたけど、いつかは吉本新喜劇にも」と続けた。もっとも「できれば磯部監督の作品にまた出たいという気持ちが強いかもしれない」。
「私をトップ(主演)にと思ってくれた人が、この世界に1人いただけでもありがたい。それが磯部監督だったことが、私にとってベスト・オブ・ベスト」
よい監督、よい作品に恵まれた。「見る人が好きなところを自分なりに見つけてくれれば、それでいい。優しい映画です」「とにかく皆いい人で、すごく温かい撮影現場でした。自分が出ているかどうかに関わらず、大好きな作品」としみじみ語った。
東京・新宿K's cinemaで公開中。順次全国で公開予定。



