生物心理学者の岡ノ谷一夫さんが、夏に読むのにぴったりな文庫3冊を紹介している。デカルトの『世界論』、フロイトの『フロイト、不安について語る』、そしてペンギンの生態を描いた『ペンギンの世界』の3冊だ。
デカルト『世界論』:自然科学の基盤を築いた思考実験
岡ノ谷さんは、デカルトと言えば「我思う、故に我あり」が有名だが、『世界論』では現実を離れ、物質と物理法則だけから世界を再構成する思考実験を行っていると解説する。これはSFの走りとも言え、そこから我々の世界とよく似た世界が生じると考えたという。
この考え方は、自然科学を神学的説明から切り離す方向に働き、対象より関係と法則を重視する点で、現代の圏論をも思わせると岡ノ谷さんは指摘。さらに、記号と意味の恣意性、刺激と感覚の非類似性にも注目し、言語学と神経科学を架橋する発想まであったことに驚きを示している。
フロイト『不安について語る』:行動生物学に近い説明様式
『フロイト、不安について語る』は、フロイトの著作から不安についての記述を集めたものだ。岡ノ谷さんによると、ここでいう不安は現代的な意味より広く、さまざまな心的非平衡状態を含むという。
興味深いのはその説明様式で、現象の記述から心的メカニズム、さらに適応的機能へと進む点だ。後の行動生物学に驚くほど近いと岡ノ谷さんは評価する。ただし、時々出てくる患者の事例は、やっぱりフロイト節だと述べている。
『ペンギンの世界』:涼むための小ネタ満載
「すまん。夏なのに暑苦しい本を紹介してしまった。最後は〈3〉で涼んでくれ」と岡ノ谷さんは語る。『ペンギンの世界』はペンギンの小ネタ満載で、足には巧妙な熱交換システムがあり、寒冷地でも体温を保てると説明。その体はまるで全身が酸素ボンベのように潜水に適応しているという。
直立して見えるが体のつくりはいかにも鳥であり、「人鳥」という当て字もあると岡ノ谷さんは紹介。フンボルトペンギンは寒いのが苦手なため、冷やさないようにと注意を促している。



