お笑い芸人のラランド・ニシダさんが、ポケットに入れて持ち歩きたい文庫3冊を選んだ。昆虫学者のエッセー、戦前の恋愛を描いた小説など、多彩な作品が並ぶ。
昆虫学者の軽妙なエッセー
1冊目は、小松貴著『晴れでも雨でも昆虫学者』(新潮文庫、693円)。昆虫学者による昆虫エッセーで、学者というと硬い文体を想像してしまうが、軽妙で、冗句や脱線も多く、著者が目の前で話してくれているように軽やかに読める。
スズメバチに寄生するネジレバネや洞窟に暮らすゴミムシなど、日常では決して出会わない、けれどなぜ今まで知らなかったのかと思うほど奇妙で興味深い生態の虫たちが登場する。また、コロナの時期に書かれたらしく、外に出られない昆虫学者の外出自粛体験記としても読み応えがある。
恋愛の雑味を描く短編集
2冊目は、田辺聖子著『難儀な恋 田辺聖子傑作短編集』(ちくま文庫、990円)。恋愛において幸不幸とはまた別の、人によっては雑味ともとられるような感情を丁寧に描く短編集。
一番好きだったのは「風穴」で、三十一歳のハイ・ミスの女性の、結婚相手としては不適当な候補の男性たちとの関係を描いた短編。ハイ・ミスという言葉からかなり古い時代だと思うが、恋愛で起きる情緒の動きは今と同じだ。短編ではあるが、どの話も人間が小説の中で生きている感じがする。
戦前の恋愛を描く長編
3冊目は、宇野千代著『色ざんげ』(新潮文庫、649円)。長編の恋愛小説で、昭和八~十年に雑誌に発表され、戦前の日本人の恋愛という意味でかなり現代とはかけ離れている感じがする。
実在する画家をモデルに実話ベースで書かれた作品だが、恋愛に溺れ、心中未遂にまで発展する悲哀が描かれる。2冊目とはまた違ったスケール感の恋愛で、読みながら体に力が入るような緊張を感じた。



