横溝正史の金田一耕助シリーズに登場する館や住まいの間取りを、イラストとともに詳細に再現した書籍『金田一耕助の間取り』(文・木魚庵、絵・本間至、エクスナレッジ刊)が話題を呼んでいる。経済学者で早稲田大准教授の浅古泰史氏が評を寄せた。
間取りから見える作品の新たな魅力
ミステリー小説では、冒頭に館の間取りが示されることが多いが、金田一耕助シリーズでは読者が想像するしかなかった。そこで、自称「金田一耕助勉強家」の木魚庵と、間取りに関する著書を多数手がける一級建築士の本間至が協力し、シリーズの舞台を図解した。
『本陣殺人事件』の一柳家は、中庭を囲むように部屋が配置され、家族が互いの気配から逃れられない構造が、禍々しい人間関係を生む背景として納得できる。特に『迷路荘の惨劇』の章は圧巻で、明治の元老が刺客を避けるために作った抜け道や、密室殺人の舞台「ヒヤシンスの間」の仕掛けが豊富なイラストで解説されている。
外観や内装、モデル地の考察も
再現は間取りにとどまらず、外観や内装にも及ぶ。和洋が入り交じる犬神家の屋敷は美しくも近寄りがたい雰囲気を醸し出し、『三つ首塔』など広範な舞台を持つ作品では地図も示される。『幽霊座』の舞台が浅草のあの辺りにあると分かるなど、読者は思わずニヤリとする。
モデル地の考察も興味深い。『獄門島』の場所をめぐる考察では、瀬戸内海の六島をモデルとする説が指摘されているが、島の大きさや「天狗の鼻」からの眺めとの矛盾を手がかりに、獄門島の位置を探る。『犬神家の一族』のモデル地である信州諏訪や、『白と黒』のモデル地である世田谷区成城への聖地巡礼を促す内容だ。
金田一耕助の住まいや事務所も紹介
金田一耕助の住まいや事務所をめぐる章も嬉しい。旅館「松月」などおなじみの建物が探求される。金田一耕助の初登場から今年で80周年を迎え、これほど読み継がれてきた作品に、まだ新しく「見える」ものが残されていたことに驚かされる。金田一耕助の世界は空想上のものであるはずなのに、どうやら本当にどこかに存在していたらしい。



