「父たちのこと 一九四四年のクラスメイト」評 戦争末期の軍艦裏方の克明記録
「父たちのこと」評 戦争末期の軍艦裏方の克明記録

読売新聞編集委員の鵜飼哲夫氏が、阿部公彦著『父たちのこと 一九四四年のクラスメイト』(講談社、2750円)を評している。著者は東京大学文学部教授の英文学者だが、共著者とも言うべきはその父・阿部克巳氏である。

海軍経理学校出身の父が残した記録

克巳氏は1943年に海軍経理学校を卒業、21歳で戦地に赴いた。彼が残したエッセーや手記、手紙などをもとに、同期51人のうち20人が戦死した戦争末期の日々が活写されている。

特筆すべきは、軍隊の裏方だった父の記録ぶりだ。主計官として乗船した駆逐艦「秋風」は竣工後20年以上たった老朽艦で、冷凍庫はおろか、ちゃんとした冷蔵庫もなかった。肉や魚などの生ものは積み込まれるとすぐに食べてしまい、あとは干物ばかり食べていたこと、戦闘中はビスケットや缶詰ですませていたことなど、艦隊勤務の細部が克明に記録されている。

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「海の事務屋」が描く戦争末期の実態

船が撃沈され、菊の紋章付きの漆の箱に入った「軍人勅諭」と軍刀などを背負い、重油まみれの海を泳いで逃げた事実も詳細に記されている。勇ましい戦闘場面はなく、あるのは個人の力ではどうにもならない生死の境目と、「日本艦船の墓場」と化したマニラ湾の光景など、戦争末期の日本軍の断末魔の姿である。貧弱な装備・食糧、精神性が重視された軍隊の空気を伝えるさまは「海の事務屋」の本領発揮と言える。

2011年に88歳で亡くなった父が「『人間として』恥ずかしく今に至るまで負い目を感じる」と記した“魔の数分間”、その冷酷なまでの生死の分かれ道も採録されている。遺族ものにありがちな目の曇りはない。『事務に踊る人々』(講談社)という文学的社会文化論を書いた著者の、冷静な事務仕事ぶりも際立っている。

虫の目と鳥の目で再構成された立体記録

父が虫の目で見た第九次オルモック輸送作戦の実態を、作戦に参加した他の兵隊の記録等にもあたり、鳥の目で再構成。立体的な記録としたのも特色だ。戦争体験者が減りゆく時代にあって、遺された手記を読み直し、検証し、一つの文学に高めた本書は、戦争記憶継承の一つの範となるノンフィクションである。

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