チェコで人気の日本文学、猫とコーヒーと本の「癒やし」イメージ
チェコで人気の日本文学、猫とコーヒーと本の癒やし

中央ヨーロッパに位置するチェコでは、日本文学に「猫」「コーヒー」「本」といった要素を取り入れた癒やし系の作品が人気を集めている。チェコの作家で翻訳家のアンナ・ツィマさんが寄稿した記事によると、近年のチェコの読者は日本文学に安心感や居心地の良さを求める傾向が強まっているという。

翻訳の伝統と村上春樹ブーム

チェコは「翻訳王国」と称されるほど翻訳の伝統が長く、日本文学は特に戦後に多く翻訳されるようになった。ただし、1989年のビロード革命までの共産党政権下では、作品の選定が政治に大きく影響され、検閲制度もあった。50年代にはプロレタリア文学が中心だったが、その後はいわゆる純文学の翻訳も増えていった。

ツィマさんが生まれた1991年のチェコは、すでに「自由な資本主義社会」になり、翻訳文学は政治ではなく市場原理に左右されるようになった。そんな時代にチェコの読者を魅了した日本の作家は村上春樹だった。2002年に『ノルウェイの森』がチェコで刊行され注目を集め、村上龍、金原ひとみ、筒井康隆、桐野夏生ら現代作家も次々と紹介された。

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英語圏のフィルターと漫画の普及

近年のチェコでは、英語圏での売り上げを前提として日本文学が翻訳・出版される傾向が強い。アメリカで大きなブームになった川上未映子、村田沙耶香、今村夏子、小川洋子、川上弘美、最近では市川沙央の作品は、このフィルターを通してチェコ人の読者に届けられた。ツィマさんが日本に興味を持ち始めた頃、まだ手に入れるのが難しかった日本漫画のチェコ語訳も、この10年間に大変売れるようになり、劇画からエンタメの名作まで幅広く訳されている。

このように、チェコにおける日本文学の翻訳は、共産党政権から資本主義社会への激変と、世界の出版市場の変化を映し出していると言える。

未翻訳の名作と猫・コーヒー・本ブーム

出版業界が日本文学の最新の流行を追う一方で、日本近現代文学の名作には、いまだに数多く未翻訳の作品が残されている。島尾敏雄や石川淳の戦後文学をはじめ、女性作家では河野多恵子、大庭みな子、津島佑子なども一作の翻訳はなく、他に中上健次の作品などが翻訳を待っている。

近年、もう一つの変化も見られる。最も売れているのは、猫や本、コーヒーといった要素を取り入れ、喫茶店や書店を舞台とし、ときに幻想的な要素を織り交ぜた小説である。このような居場所を探す作品は毎年数冊刊行されている。

「猫・コーヒー・本の国」という日本のイメージは、おそらく「Bookstagram」と呼ばれる現象から生まれた。SNSでは、温かい飲み物を手に、居心地の良い空間で読書を楽しむ「癒やしの時間」としての読書イメージが広がっている。そのような読書文化と、日本文学における上記のジャンルは見事に合致したのではないだろうか。それは、最近SNSをマーケティングの手段として積極的に利用する出版業界による現象なのか、それとも出版社がその流れに乗った結果なのか、定かではない。

幻想的な作品への需要と未来

村上春樹ブームの頃、チェコの読者は日本文学に不思議な世界観や理解しがたい魅力を求めていた。しかし現在、日本文学に求められているのは、むしろ安心感や居心地の良さ、つまり「癒やし」なのかもしれない。

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チェコでは、日本文学の中でも幻想的な作品が人気である。だからこそ、日野啓三の作品がいまだにチェコ語に翻訳されていないのは惜しいとツィマさんは指摘する。例えば、代表作『夢の島』(講談社文芸文庫、電子版のみ)は豊かなイメージに満ち、「一味違った日本」を知る扉となるだろう。現代にも通じる深刻なテーマをこれほど巧みに描いた素晴らしい作家を、いつかチェコの読者にも紹介したいとしている。