近現代史研究者の辻田真佐憲氏が、窪島誠一郎著『「無言館」のうた』(新日本出版社、2420円)を評した。本書は、戦没画学生の作品を集めた長野県上田市郊外の「慰霊美術館」無言館を、1997年に開館した著者が、収集の苦労話を交えながら48点の作品を紹介する内容だ。
余白を残した語り口と作品への寄り添い
本書の特徴は、その余白を残したような語り口にある。わかりやすい結論を押し付けず、一点一点の作品に寄り添いながら、作者の人となりや制作の背景、遺族の思いなどを静かにたどる。ふと漏れた一言やさりげない気遣い、消えない悔恨が丁寧にすくい上げられている。読者は立ち止まって自分で考えることができ、まるで無言館で作品と向き合う体験を活字で再現したかのようだと評している。
戦争を感じさせない作品の持つ力
カラーで掲載された作品には、戦争へのわかりやすい呪詛はほとんど見られない。むしろ家族や思い人の肖像画、可憐な花の絵などが多く、戦争を感じさせない内容だからこそ、作者の心の内を想像させ、ページを繰る手が止まってしまうと述べている。
「言語化」が重視される時代への問いかけ
辻田氏は、近年「言語化」が尊ばれる風潮に触れ、過去の戦争や現代の戦争についても、SNSや動画コンテンツの広がりで誰もがそれらしく語れるようになったと指摘。その上で、われわれは饒舌になりすぎていないかと反省を促す。戦後81年の今夏、すぐに閉じてしまえる本ではなく、読み終えても胸に残るもの、うまく言葉にできない感情を刻み込む本、取り返しのつかない死を無理に意味づけようとしない本として、本書がうってつけの一冊だと結んでいる。



