新生TISI、AI時代の競争に挑む システム開発の「根幹」消失への対応
新生TISI、AI時代の競争に挑む システム開発の「根幹」消失への対応

AIの進化により、システムインテグレーター(SIer)を取り巻く環境が急速に変化している。ユーザー企業は内製化を指向するようになり、コンサルティングファームも実装に踏み込んできた。こうした中、外資系AIベンダーも日本市場に参入。エンジニアが顧客先に常駐し、AIの実装と業務改善を一体で進める「FDE」(Forward Deployed Engineer)を掲げ、攻め込む。

新生TISIの強みとは

2026年7月1日、TISとインテックが合併し、商号をTISIに変更した。SIerを取り巻く環境が目まぐるしく変わる中、TISIはどこに自社の強みを見いだし、それをどのように打ち出そうとしているのか。

同社のAI事業を担う、ビジネスイノベーション事業部の中嶋知人氏(ビジネスイノベーション事業部長)は、まず自社の強みについて次のように語った。

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「これはあくまでビジネスイノベーション事業部としての見解ですが、われわれの強みはインテグレート(統合)にあると考えています」

多くのユーザー企業は複数のAIツールを既に導入しているが、AIを導入するだけで企業全体として成果を出す段階には至らない。「AI同士をどう連携させ、どう使い分けて効果を出すか。その前提として、各AIにどうデータを学習させるか――。こうした部分を強力にインテグレートし、AI活用を推進し得るのがわれわれの強みだと認識しています」(中嶋氏)

合併の背景とシナジー効果

2008年に経営統合してから約20年、今回独立系SIerの両社が合併に至った背景の一つには、従来のグループ体制ではAI投資をはじめとする経営資源が分散しがちで、経営環境の変化に追随しづらいといった課題があった。経営を一体化することで、選択と集中で投資と資源を適切に振り分ける狙いだ。加えて、都市部に強いTISと、全国に多くの拠点を抱えるインテックが強みを掛け合わせることによるシナジー効果も期待されている。

また、中嶋氏が率いるビジネスイノベーション事業部は、コンサルティングと、2026年5月から提供を開始した「IntegriA」によるAI・データ分析を軸に顧客協創、社会課題解決を図る部署だ。ビジネスイノベーション事業部の源流は10年前にさかのぼる。2016年、TIS(当時)は同社として初めてAIの名を冠した事業部であるAI事業部を設けた。同社はこの事業部を、システム開発ではなく、顧客の問題解決を担う部署として位置付けた。

AI事業部のこの位置付けについて、AIを提供すること自体ではなく、顧客のビジネスに変革や成果をもたらすことが自分たちの使命だからだ、と中嶋氏は説明する。このAI事業部と、コンサルティング機能を担っていたビジネスイノベーション事業部が一体となり、現在のビジネスイノベーション事業部が誕生した。「最新のAIと、われわれが強みとしているシステムインテグレーションサービス事業や、決裁系を中心としたサービス開発事業、アウトソーシング・クラウドサービス事業などと連携しやすくする狙いもあります」(中嶋氏)

「1つのAIに賭けない」メリットとは

統合後のTISIは次の4つの事業に取り組んでいる。

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  • システムインテグレーションサービス:顧客の要望にベストマッチするシステムの構築から運用までを提供
  • アウトソーシング・クラウドサービス:顧客のITシステム運用からクラウドサービス、業務代行までを幅広く提供
  • サービス開発:業務を通じて得た知見・経験や先進技術の研究・活用によりサービスを創出・高度化
  • コンサルティングサービス:顧客の事業価値を高めるためのIT活用を提案・支援

中嶋氏は、従来のシステムインテグレーションサービス事業はAI駆動型開発によって受注回転率を高めることで収益の質的転換を図ると説明する。加えて、AIを単体で提供するのではなく「システムインテグレーションサービス事業・コンサルティングサービス事業で培った業務知見を持つわれわれだからこそ提供できる、Vertical AIによるストック収益拡大を目指す」と強調する。

AI駆動開発によって開発期間が短縮されることで、受注余力が拡大する。AIを使うことで、エンジニアはこれまで人手や工期の制約で断念していた問題にも解決策を提案できるようになる。「1人当たりの付加価値は高まると考えています」(中嶋氏)

外資系AIベンダーの進出、どう見ているか

外資系AIベンダーの日本市場への進出をどう見ているのか。今福一樹氏(ビジネスイノベーション事業部 AI事業戦略室長)は次のように語る。

「どのベンダーがどんなサービスを打ち出してくるかは、われわれもまだ読み切れていません。外資系AIベンダーを競合として捉えるのではなく、われわれがパートナーとして複数のAIを組み合わせてお客様に提供していく上で、協力関係を結ぶことが必要になると思います」(今福氏)

今福氏が語る、複数のLLMを使い分ける利点の一つにコストがある。AIエージェントの本格導入などによって、利用料金の高騰が問題として急浮上している。「自律的、かつ高い思考力が求められるユースケースでは高価なモデルを使い、それ以外のユースケースでは安価なモデルや無料のモデルを使う。今後はこうした使い分けがより重要になります」

ソブリンリスクを低減する重要性も増している。2026年6月、米政府の連邦政府指令を受けて、米Anthropic社のAIモデル「Claude Fable 5」に対する、米国以外の国籍を持つユーザーのアクセスが停止されたことは記憶に新しい。アクセス規制は同月内に解除されたが、安全保障上の懸念を理由として再び制限がかかる可能性は否定できない。

このようにコストや求められる自律性、政府の要請に基づくアクセス制限に応じてAIモデルを組み替える必要性が増す中、重要になるのが設計力だ。今福氏はこれを「AIアーキテクト」と呼ぶ。「SIerが力を発揮できるのが、まさにAIアーキテクトの役割だと思います」(今福氏)

ミッションクリティカルな基幹システムを長年支え、顧客の業務に入り込んで運用してきた過程で培った知見を土台に、AIを前提とした業務プロセスで成果につなげる――これがビジネスイノベーション事業部が描く、AI時代の戦い方だ。

急上昇するコスト問題、ソブリンリスク……AIモデルを選択する難しさ

この統合力をサービスとして提供するのが、IntegriAだ。名称から筆者はAI基盤を連想したが、中嶋氏が語るIntegriAのサービス提供範囲はもっと広い。「IntegriAは統合管理や外部サービスとの連携といった基盤機能だけでなく、ガバナンスの整備や人材育成の支援も含めた、AIに関するトータルサービスを提供します」(中嶋氏)

IntegriAが提示するAI時代の企業像は、企業戦略やIT基盤、データ、業務プロセス、人材といった経営基盤を、AIの活用を前提に更新した姿だ。ただし前述の通り、多くの企業はまだその前段階にある。そこで現実的なステップの第一段階として考えられるのが、小規模プロジェクトから段階を踏んで適用規模を拡大するスモールスタートだ。スモールスタートを支援する場合も、システム化できたかどうかだけでなくガバナンスや人材、企業文化に適合するかどうかまで多角的に検証しながら拡大していく、と今福氏は説明する。

冒頭で触れたように、新生TISIが抱える顧客企業の企業規模や業種、所在地は多岐にわたる。AI時代に目指すべき企業像や、それを実現するためにやるべきことは同じなのだろうか。本間宏明氏(ビジネスイノベーション事業部 ストラテジー・デジタルコンサルティング第2部長)は、「最終的に目指す姿が『AIと企業経営が一体化した状態』であることは大きく変わらないと思います。一方で、何を優先するかによってそこに至るためのステップは異なります」と分析する。

本間氏が語る、優先順位によって異なる2つの進め方は次の通りだ。

  • AIの浸透を優先するケース:AIの「基礎体力」を付けることを優先し、AIを全社に浸透させることから進める
  • ROI追及を優先するケース:さまざまな業務プロセスの中からターゲットを決め、そこでROI(費用対効果)を出せるかどうかを継続的に測りながら取り組む

SIerの「売り文句」は陳腐化? 差別化ポイントはどこにあるのか

ここまで新生TISIが、AIを活用した新ブランドのサービスを通じて強みをどのように打ち出すのかについて、ビジネスイノベーション事業部の3氏の話を通じて紹介してきた。一方でユーザー企業からすると、SIerが提供するサービスの「売り文句」が陳腐化しておりどこに違いがあるのかが分かりにくい、といった指摘がある。「顧客の要望に応える」といった「待ちの姿勢」からの転換を求める声も出てきた。

これに対し、中嶋氏は次のように答えた。「われわれはお客様の問題を解決します。これを実現するために、コンサルティングという上流工程を長年強化してきました。ただ提案するだけでなく、実現する力も備えています」(中嶋氏)

本間氏は「最適解を示すことも、われわれの強みです」と付け加える。AIモデルの選択肢は多く、ユーザー企業が自力で最適解を選ぶのは難しいというのが同社の見立てだ。「求められたものを提供するのではなく、それぞれのお客様にとっての最適解を提案できるのが強みの一つだと思っています」(本間氏)

各AIモデルの「賢さ」の進化は日進月歩だ。AIのユースケースが日々増えていく中、自社のどの業務にどのAIモデルを適用するのが最適なのか、コストやガバナンス面を考慮しつつ答えを見いだすことはより難しくなっている。提供国の政府の要請によって、AIモデルを切り替えざるを得ない事態も考慮する必要が出てきた。

AIを前提にした組織変革、業務変革に取り組む企業にとって、これは単なるAIモデル選択の話ではない。AIモデルの切り替えを余儀なくされたときに問題なく機能するITシステムをどのように構成するかが求められている。こうした意味で、ユーザー企業がSIerに統合力を求める傾向は、これまで以上に強まりそうだ。

外国が打ち出すFDEに対し、TISIのオンサイト事業を含む日本のSIerが実際にどのように対抗するのかも、今後注目したいポイントだ。ユーザー企業にとってはパートナー企業の選択肢が増えると同時に、パートナー企業選びの「物差し」を、AIや自社業務への理解といった複数項目にわたって見つめ直すきっかけになりそうだ。