一般消費者向けの新商品を開発する際のマーケティングでは、その商品の利用者を想定してさまざまな角度から調査し、ニーズを的確に把握しようとする。そんな一連の業務をIT化したのが、NECが提供するマーケティング施策立案ソリューション「BestMove」(ベストムーブ)だ。
AIペルソナでマーケティングの精度をどう高める?
最大の特徴は、想定した利用者として「AIペルソナ」を生成できることだ。接客接点の多様化やデータ量の増加を背景に、データに基づく施策立案の重要性が高まっている。こうした中、NECが開いた記者説明会で、BestMoveのユーザーである味の素冷凍食品が活用事例を紹介した。その内容がユーザー企業のマーケティング活動にも参考になるのではと感じたので、今回はこの話を取り上げたい。
「AIマーケティングは導入検討やテスト段階から実装フェーズに移っている」――NECでBestMoveの事業責任者を務める小舎子(こずし)浩志氏(ビジネスイノベーション統括部ディレクター)は、同社が2026年8月6日に開いたこの分野の最新動向についての記者説明会で、こう切り出した。
BestMoveは、NECが2025年5月に発表し、同年6月に提供を開始したクラウドサービスだ。同社がDX(デジタルトランスフォーメーション)支援ソリューションとして注力している「BluStellar」のオファリングの一つである。
BestMoveはマーケティング領域のどのような課題をどう解決しようとしているのか。同社によると、BestMoveは「マーケティング施策立案に悩むマーケターに対して、商品やサービスに反応する市場の接点を深く分析し、複数の施策案を相対比較することで最適な一手を提案するソリューション」とのことだ。「接点分析から施策立案、効果予測までの一連の業務プロセスをワンストップで支援することで、マーケターが確信を持って意思決定できるようになるとともに、ナレッジ共有により人材育成や生産性向上にも貢献する」としている。
同社はこの分野の市場背景について、「企業のマーケティング活動では、接客接点の多様化やデータ量の増加を背景に、データに基づく施策立案の重要性が一段高まっている。一方でデータ活用人材の不足、施策立案が担当者の経験や勘に依存しやすいといった問題を抱える企業も多い。こうした問題への対応策として、AIを活用してマーケティングを高度化する取り組みが広がっている」との見方を示した。
さらに「多くのAIを活用したマーケティングDXソリューションは、一般的な知識や仮想データに基づく提案に留まる場合が多い。実際の接点特性や購買行動を十分に反映できていないため、実務で活用できるレベルの精度を確保することが課題となっている」とも指摘した。
BestMoveの最大の特徴はAIペルソナ
BestMoveの最大の特徴は、消費者の実購買データや意識調査データを、NEC独自の「消費者特性拡張技術」により高度化し、ターゲット接点を解像度高く再現したAIペルソナを生成する点だ。
そのAIペルソナへのアンケートやインタビューを通じ、新しい商品やサービスの市場投入前に、消費者の反応を定性・定量の両面からわずか数分で予測できるという。これにより、マーケティング担当者は得られた示唆をもとに改善するまで施策を改善できる。意思決定の迅速化、施策の成功率向上、プロダクトライフサイクルの短期化、ROI(費用対効果)改善に貢献できるとしている。
小舎子氏が「実装フェーズに移っている」としたBestMoveは、「大手企業の商品企画や営業販売促進の現場で活用が進んでいる」とのことだ。今後、企業規模を問わず、幅広く普及させていきたい考えだ。
味の素冷凍食品の事例に見る「BestMove」活用法
会見では、BestMoveのユーザーである味の素冷凍食品で新商品開発のマーケティングを担う桐畑理恵子氏(新価値創造部 新価値創造グループ グループ長)が活用事例を紹介した。
同社のマーケティング活動は「冷凍温度範囲で、新しい商品を世の中に作る」ことを使命としている。BestMoveを導入した決め手について、桐畑氏は次のように述べた。
「新商品の開発について必要な情報や知見がないというのが、まず入り口の問題としてあった。どうすればやりたいことを形にできるのか。BestMoveでその最初の壁をブレークスルーしていけると実感できた」
桐畑氏はBestMove導入の前後における「コスト」「スピード」「仮説の数」の3つの違いについて、コストは「調査データを都度購入していた形から利用料だけで調査し放題へ」、スピードは「調査に数週間かかっていた形からAIペルソナへの調査が数分で完了へ」、仮説の数は「主観と経験値で案も数個だった形から壁打ちAIによって数多くの案を出してから絞り込んでいく形になった」と説明した。
新商品開発へのマーケティングとしては、どのような問題があったのか。桐畑氏は「データがない」「スキルがない」「発想が広がらない」の3つを挙げた。データについては「自社データは既存の領域に偏り、未知領域では使えず、調査予算も足りない」、スキルについては「未知市場の調査から事業構想までを担う経験が社内に足りない」、発想については「検討が深まるほど思考を発散できず、主観で選択肢を狭めてしまう」といった点を具体的な問題として挙げた。
こうした問題を、BestMoveによってどのように解決できたのか。桐畑氏は上記の3つの問題を解決できたとして、データについては「アンケートやインタビューをやり放題。数の単純悪さもすぐに判断可能」、スキルについては「接客理解やアイデア評価など一連の流れを一定のレベルで実施可能」、発想については「AIが発想を強制発散で新たな気づきや発見が見つかる」といった点を挙げた。
桐畑氏は実際の業務でのBestMoveの使い方について「市場を壁打ち」「コンセプト拡散」「評価を繰り返す」「伝え方を探る」といった4つの場面での具体的な取り組みを示した。その上で、同氏は「特に3番目の評価を繰り返す作業においてAIならではの効果を感じた」と語った。
現時点での導入効果はどうか。同氏は「調査費用がほぼゼロに」「価値に対する判断スピードが9割以上迅速に」なったことを挙げた。また、「数の単純悪さを迅速に判断して前進することができる」とのチームメンバーの声も紹介した。
以上のような活用事例を受けて、小舎子氏は会見の最後に「BestMoveによって、接客理解から反応予測まで、企業のデータを最大限に生かす仕組みを構築することができる」と述べた。「今すぐ始められるSaaS」から「自社データで深化」し、「マーケティングOSの構築」といった3つのステップを踏めるBestMoveの価値を強調した。
今回のBestMoveの活用事例の話は、冒頭でも述べたように、多くユーザー企業のマーケティング活動の参考になるのではなかろうか。筆者はこれまで新雑誌の立ち上げ(新商品開発)に幾度か関わってきた。その中で想定読者(ペルソナ)を設定し、その読者が何を考え、どんなことを知りたいと思っているかを探るのに、相応の時間と費用と労力をかけてきた。しかし、思い通りには進まず、雑誌を成功させるのはなかなか難しかった。「AIペルソナを使えば」と、取材しながら自身の経験と重ね合わせて考えた次第だ。
最後に、桐畑氏の話にマーケターとしての熱意を感じたので会見の質疑応答で「マーケティングにAIを活用する上で最も重要なポイントは何か」と聞いた。すると、桐畑氏は次のように答えた。
「AIをどんどん活用して自社が提供する価値を最大化することが最も重要だ。AIでいろいろなことができるようになっている。こうした中で、自社が提供する価値を最大化してどうアウトプットするはマーケターの力量にかかっていると思っている」
桐畑氏が率いる組織名にも「新価値創造」とあるように、AI活用の目的は「価値の最大化」であることを普段から意識しているのだろう。マーケターとしての強い思いを感じた回答だった。



