福島県郡山市の磐越自動車道で発生したマイクロバス事故を受け、高校生1人が死亡し17人が重軽傷を負った痛ましい事件を契機に、部活動の遠征を頻繁に行う強豪校を中心に安全対策の見直しが全国で加速している。安全性を確保しながら、交通手段の確保と費用面での折り合いをどうつけるか―学校現場は多くの課題を抱え、対応に追われている。
教員による運転の実態とリスク
岐阜県内有数の強豪校として知られる高校の男子バレーボール部の顧問は、「運転手付きのバスを外部に委託すると高額になり、保護者にも負担になる」と現状を語る。そのため「指導者が運転せざるを得ない」とし、夏休みや連休の合宿などでは顧問自身が高校のマイクロバスを運転し、生徒らを遠征地へと連れて行っている。
愛知県内のある私立高校でも同様の状況が見られる。遠征の際には中型免許を持つ顧問らがマイクロバスを運転する。野球部だけでも遠征は年間30回以上に上る。出発前のアルコール検査などを徹底しているものの、「プロではないため、リスクと隣り合わせだ」と担当者は認める。それでも毎回貸し切りバスを外注するのは費用面で難しく、「安全運転の徹底を言い続けるしかない」というのが現状だ。
事故後の変化と新たな取り組み
しかし、事故後には変化も見られる。複数の強豪運動部を擁する三重県北部の県立高校の教頭は、「生徒から追加徴収してでも、観光バスを借りる運動部も出ている」と明かす。この高校ではこれまで、教員が運転する遠征の際には事前に保護者から文書で承諾を得てきた。事故後、教員の運転免許などに不備がないか再確認したが、教頭は「今後は教員が運転したがらないかもしれない。公共交通機関で現地集合する部が出てくるだろう」と予測する。
一方、独自の安全策に乗り出した学校もある。長野市の長野日大高校は事故後、部活の遠征用マイクロバスに、運行状況を常時把握できる「見守り付き送迎サービス」の導入を決定した。このシステムにより、保護者に乗降を通知したり、危険運転を検知したりすることが可能になる。添谷芳久校長は「命を守るシステムにはお金をかけるべきだ」と強調する。
バスを貸す側の不安
マイクロバスを貸す側にも事故による動揺が広がっている。県立高校や少年野球チームの依頼に応じ、謝礼1万円程度でバスを貸してきた愛知県三河地方の飲食店員は、「『事故が起きても借りた側の責任』という口約束だったが、何かあったら怖い」と不安を漏らす。
国による明確なルールの欠如
学校ごとに対応が異なる背景には、国レベルで明確なルールが存在しない実態がある。事故を受け、三重県、福井県、石川県などの県や教育委員会が遠征の実態調査に乗り出すなど、自治体レベルでの動きが始まっている。安全管理のためには「国が指針を出すべきだ」と訴える専門家もいる。
文部科学省によると、国は校外活動全般の危機管理マニュアル作成を学校に義務付けているものの、部活動の遠征に関する具体的な指針はないという。
自治体の対応
福井県教育委員会は事故を受け、県立高校などを対象に遠征の交通手段について調査を開始した。車両の調達方法や運転者の状況などを確認する。三重県も部活動の移動に関する実態を調査し、6月中をめどに集計・公表する予定だ。
愛知県教育委員会は14日、県立高校長らに対し、移動時の安全確保の徹底を電子メールで要請。部活動の遠征には原則として公共交通機関を利用し、交通が不便などやむを得ない場合は校長の判断で貸し切りバスを認める方針を改めて周知した。県教委事務局の担当者は「部活での移動を今後どうすべきか考える必要がある」と述べている。
専門家の指摘
名古屋大学の内田良教授(教育社会学)は、部活動について「学校行事と比べて安全管理が手薄な中で運用されてきた実態があり、国が指針を出すべきだ。運転手が乱暴だったという話で終わらせてはいけない」と指摘した。



