カスハラ条例、効果は限定的 被害後絶たず、周知と活用が課題に
カスハラ条例、効果は限定的 被害後絶たず周知が課題

客による理不尽な要求や暴言といったカスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐため、条例を制定する自治体が増加している。事業者からは「毅然とした対応が取りやすくなった」との声が聞かれる一方、被害は依然として後を絶たない。条例の周知方法や活用の仕方、そして次の一手が問われている。

愛知県の条例施行と現場の声

2025年10月に条例を施行した愛知県。県内でスーパーマーケット50店舗を展開する「アオキスーパー」の男性店長(40)は、条例施行後も高齢の女性客に怒鳴られた経験を語る。女性はセルフレジでクレジットカードの不具合により決済できず、「お金は家にある。取りに来い」と要求。店長は「カード会社に問い合わせてください」と断り続け、「冷たい店だ」と怒鳴られても屈しなかった。

店長は「『カスハラはダメだ』と条例で明確化され、よりどころになった。お客さんに『できない』と言いやすくなった」と振り返る。しかし、被害は業種を問わず散見される。

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相談窓口の実態と企業支援

愛知県が条例施行に先立ち2025年9月に設置した相談窓口には、2026年3月までに110件の相談が寄せられた。内容は「患者や家族の暴言に職員が不安」(医療福祉業)、「取引先が手数料の支払いを拒む」(飲食サービス業)などの実例のほか、「社内体制の整備方法が分からない」といった対策面の悩みが目立つ。

これを受け、県は2025年度に社会保険労務士らをアドバイザーとして13社に派遣し、マニュアル作成を支援。2026年度は派遣先を20~30社に増やし、業界団体向けのセミナーも開催する予定だ。

県が2024年に234社から得たアンケートでは、約6割がカスハラ対策について「特にない」と回答。県労働福祉課の斎藤光生さん(43)は「当時は周知が十分でなかった」と分析し、今夏までに同様のアンケートを実施し、「企業の取り組みが進んだか、条例の効果を把握したい」と述べた。

全国に広がるカスハラ防止条例

カスハラ防止条例は全国で広がりを見せている。地方自治研究機構(東京)によると、都道府県では愛知県のほか東京都、北海道、群馬県、静岡県が既に施行。2026年10月にすべての企業や自治体にカスハラ対策を義務づける法律が施行されるのを見据え、三重県は罰則付き条例の2027年4月施行を目指している。

愛知県の条例は、カスハラについて「顧客からの悪質な苦情」「何人も行ってはならない」と定める一方、東京都と同様に罰則規定のない理念条例にとどめた。これに対し、三重県桑名市の条例は、警告後に改善が不十分な場合、行為者の氏名を公表できる制裁措置を盛り込んでいる。

桑名市によると、条例施行後の2025年4月から2026年5月8日までに、「客から暴言を浴びせられた」「過大な要求を受けた」など27件の相談を受け、うち2件をカスハラと認定。いずれも行為者に警告した結果、「今のところ再発しておらず、氏名公表には至っていない」という。

今後の課題と専門家の指摘

全国に先駆けて条例を定めた東京都が施行半年後の2025年10月に実施した実態調査では、カスハラ対策を講じた企業は38.5%にとどまった。講じない理由として「正当なクレームとの判断の難しさ」や「ノウハウ不足」が挙がった。

成蹊大の原昌登教授(労働法)は、条例を「強いメッセージになる」と評価する一方、「パワハラの概念と同様、カスハラ防止の理解が社会に定着するには時間がかかる」と指摘。行政に対し「条例は作ったら終わりではない。啓発ポスターやパンフレットの配布などで理念を継続的に伝えることが必要だ」と求めた。

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