愛知県豊田市の設備工事業、石川昭さん(78)が、長年野ざらしになっていた蒸気機関車(SL)を引き取り、足かけ5年の歳月をかけて修復しました。2026年5月10日に、実際に動く様子を披露する試走が行われます。石川さんは、時代を駆け抜けたSLの雄姿を次世代に伝えたいと願っています。
修復の経緯
修復されたのは、1944年製のD51形1149号です。「元々はお化けのようだった」と石川さんは笑います。再塗装され、かつての輝きを取り戻した車体は、高さ4メートル、幅3メートル、全長20メートル。屋根付きの作業場で、石川さんは毎日6時間、一人で修復作業を続けてきました。
このSLは2022年夏、滋賀県多賀町から無償で譲り受けました。元々は1970年代のSLブームで開業した民間施設「多賀SLパーク」の目玉として置かれていましたが、ブームが下火となった80年代末にパークは閉鎖。町が引き取り、活用方法を模索していたところ、石川さんが申し出ました。
見よう見まねの修復作業
高校卒業後、名古屋市内で建設機械修理の見習いとして働き、30代半ばから設備工事業を営む石川さんは、仕事の傍らクラシックカーやバイクの修理を趣味としてきました。SLの修理は初めてでしたが、解説書を読みあさり、詳しい人に聞きながら、見よう見まねで取り組みました。
最初の作業は現地での解体です。高さや重量が道路交通法の制限を超えていたため、台車とボイラー、炭水車の三つに分解。豊田市に持ち帰ると、長年雨風にさらされた影響で汚れや腐食が想像以上に進行していました。部品を一つずつ外してさびや汚れを落とし、不足する部品は買い集め、穴あき部分は板金塗装で埋めました。配管もつなぎ、蒸気の代わりに圧縮空気を送り込むことで、車輪が動くようになりました。
歴史を伝える意義
修復には多額の費用がかかりましたが、石川さんは「SLは何十年と研究された構造と職人たちの努力で、日本の経済発展に活躍した。一つの歴史だから、本や絵でなく、動く当時の姿で残したい」と熱く語ります。新たなSLも受け入れる予定で、「終点はない」と前を見据えています。
お披露目イベント
試走は5月10日午前9時から午後2時まで、豊田市吉原町の石川製作所(トヨタ車体吉原工場南)で行われます。約40メートルの線路上を往復する予定で、見学は無料です。有志によるクラシックカーの展示もあり、近隣に約50台分の駐車場が用意されています。
D51の歴史的価値
D51は1935年から計1115両が製造され、動力とつながった車輪「動輪」を四つ備えた牽引力の高さが特徴で、主に貨物用として活躍しました。舗装道路が少なく、トラックが普及していなかった時代に、日本の物流の中心を担いました。
石川さんが修復した1149号は太平洋戦争中の製造で、煙突の後ろの蒸気ドームは、物資の乏しい時代を反映してかまぼこ形に簡素化されています。鉄道歴史に詳しいNPO法人「名古屋レール・アーカイブス」の服部重敬理事長は「戦争の影響を伝える貴重な車両でもある。修復する意義は大きい」と話します。この車両は関東地方を長く走り、最後は北海道で石炭を運びました。
SLを修復して走らせる取り組みは、明知鉄道(岐阜県恵那市)や若桜鉄道(鳥取県)、えちごトキめき鉄道(新潟県)などでも事例があり、地域振興の目玉となっています。名古屋市科学館では、SLの車輪が動く様子を間近で見られる「動態展示」を行っています。



