素描が醸す斎藤清の妙――企画展でパリと日本の魅力を再発見
素描が醸す斎藤清の妙――企画展でパリと日本を

現在、茨城県天心記念五浦美術館では、7月12日まで企画展「関彰商事コレクション 斎藤清のパリ そして日本」を開催中です。国際的に活躍した版画家・斎藤清(1907~1997年)の木版画と素描作品148点が一堂に会し、特にパリ、京都、鎌倉で制作された素描を美術館で初公開しています。

素描が持つ独自の魅力

素描は単なる版画の下絵と見なされがちですが、それだけではもったいないものです。写生ならではの即興的で躍動感のある鉛筆の線や、絵の具の微妙な色むらは、版画作品とは異なる魅力にあふれています。素描そのものが鑑賞に値する「作品」であることを、ぜひ会場で実感してください。

パリ滞在が生んだ作品群

出品作品の中で最も多いのは、1959年に約2カ月滞在したパリで描かれた素描です。斎藤は同年11月から12月にかけてパリに渡り、厳しい寒さにも負けず毎日のようにスケッチブックを携えて街を歩きました。これらの素描は、翌年以降に制作されるパリを題材にした木版画の着想源となっています。

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素描には日付が記されているため、斎藤の足跡をたどる貴重な資料でもあります。ノートルダム大聖堂やサクレ・クール寺院などの観光名所を描きながらも、「絵かきが描くのはいつも表の門ばかり」として、教会の正面よりも内部を描いた素描からは、人と同じ絵を描くまいとする強い気概が感じられます。

モダンな感覚が光るカルダンのブティック

パリ素描の中でも、斎藤のモダンな感覚が特に発揮されているのが、当時新進気鋭のファッションデザイナー、ピエール・カルダンのブティックを描いた作品です。カルダンはこの年、パリ・オートクチュール組合のメンバーとして初めてプレタポルテに参入するなど、革新的な活動を展開していました。

カルダンの作品撮影を担当していた日本人写真家、高田美の案内で、斎藤は店内でスケッチを行いました。店番をする女性を描いた素描と木版画を見比べると、コントラストで手の白さを強調する手法や背景の省略など、斎藤による単純化の妙を見いだせます。

日本の古都と雪景色への回帰

パリなどの海外滞在経験を経て、1950年代以降、斎藤は日本の古都の風景を描くようになります。抽象画家モンドリアンの直線で構成された作品に日本の障子との共通点を見いだした斎藤は、京都を訪れ、桂離宮や龍安寺の石庭など、日本の伝統的建築や庭園が持つ簡素な美を抽象的な画面に表現しました。

神社仏閣を画題に好む傾向は、1970年に移り住んだ鎌倉でも変わりませんが、ここでは紫陽花の美しさを知ったといいます。妙本寺や建長寺の山門のほか、長勝寺の桜や明月院の紫陽花など、花々が彩る境内を描いています。

同じころ、会津の雪景色シリーズにも取り組み始めます。海外を見たことで故郷の雪景色の良さを再認識したのです。斎藤のライフワークであり代名詞的作品ともなった「会津の冬」シリーズ、さらに1987年に移り住んだ福島県柳津の地で描いた四季折々の美しさを見せる会津の版画作品も紹介しています。

創造のプロセスに触れる絶好の機会

本展は、斎藤清の創造のプロセスに触れるまたとない機会です。素描と版画の両方を比較することで、彼の芸術的発想の源泉を探ることができます。ぜひお見逃しなくご覧ください。(県天心記念五浦美術館 学芸員・長谷川翠)

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