憲法全文を読む市民の輪 9条だけではない「有機的つながり」に学ぶ
一人一人が憲法全文を読み、考える場の大切さが今、改めて注目されている。憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を自民党が衆議院で確保したことに対し、強い危機感を抱く市民たちがいる。国会前での緊急アクションやインターネット署名など、改憲に反対する動きが全国各地で広がりを見せている。平和憲法を守りたいという切実な願いが、多くの市民を動かしているのだ。
深大寺九条の会の学習会 条文の有機的なつながりを探る
東京都調布市の深大寺九条の会は、作家の大江健三郎さんらが立ち上げた護憲派市民団体「九条の会」に賛同し、2005年11月に市民ら20人余りで発足した。憲法や社会問題についての学習会を重ねてきた同会の「憲法逐条学習会」は、2018年1月に平和憲法が変えられることへの危機感から始まった。翌2019年7月まで月に1回ほど2時間ずつ開催され、参加者が日常での体験や調べたことを持ち寄り、自由に意見を交わした。
会の世話人である角田洋子さん(84)は「面白かった。みなさん、すごい真剣にいろんな話が出て」と振り返る。同じく世話人の黒沢裕子さん(71)は、憲法前文の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ」る権利を「日本だけじゃなく、世界中の女性も男性も隷従から自由になる理想だ」と受け止め、「かっこいいですよね」と語る。
自民党改憲草案への懸念 個人の権利制限を危惧
自民党が2012年に発表した改憲草案は、国防軍を明記し、国民の権利について「常に公益及び公の秩序に反してはならない」と記した。角田さんは9条だけでなく「個人の権利を制限する条文がめじろ押しだ」と感じた。世論には改憲に肯定的な意見も広がり、憲法が時代に合わなくなってきたという声も聞こえてきた。憲法が「生活から遠のいていく」気がしたため、みんなで全文を読むことにしたのである。
黒沢さんは「憲法に現実が追いついていない」と思ったと語る。学習会では、性別の平等について、憲法制定当時に「日本には女性が男性と同じ権利を持つ土壌はない」という考えが根強かったことを振り返った。女性の権利を認めた憲法下で、男性による育児の広がりなどの変化が生まれたことも挙げつつ、「なぜ国会議員はいまだに女性が少ないのか」という課題も語り合われた。
教育と個人の尊重 道半ばの現実
26条の「ひとしく教育を受ける権利」を読んだ際には、「重いランドセルで腰痛になる子もいる」と現状を心配する声が相次いだ。懸念は今も続いており、教員が多忙を極め、子どもたちの自由を尊重するよりもルールで管理しがちになる一方で、小中学校で道徳が教科化されたことについて、元教員の黒沢さんは「『いい子でいなさい』という中で、子どもたちは困ったことを自分の中に押し込めてしまう」と感じている。
13条がうたう個人としての尊重は、道半ばである。「みんなで相談して解決しようよ」ではなく、ルールに従う体験ばかりして成長すれば、「権威に従順になると思う」と危ぶむ声も上がった。角田さんは「憲法は一条、一条が切り離されてあるものではなく、有機的につながっている」と強調する。
国会前の緊急アクション 市民の声を可視化
「改憲反対」「平和を守れ」の声が響く国会前では、10日夜に「平和憲法を守るための緊急アクション」が開催され、約8千人(主催者発表)が集まった。さまざまな色のペンライトやスマートフォンをかざしながら声を上げる参加者の姿が見られた。
日本体育大学の清水雅彦教授(憲法学)は「政治は(与党が多数を占める)国会だけで決まるわけではない」と訴え、「改憲勢力が国会で多数でも、国会外での市民運動を大きくすれば改憲に向けた発議はできない。日頃からのこのような取り組みを大きくしていこう」と呼びかけた。20代男性が「憲法9条を触らせるわけにはいかない。今後もしっかり声を上げ続け、私たちの手で憲法の理念を守り続けていきましょう」と語りかけると、多くの聴衆から拍手が湧き起こった。
ネット署名や専門家の見解 民意の可視化を目指す
富山市在住の大坪祐二さん(56)は、ネット署名サイトChange.orgで2月9日から「憲法改正に反対します。」と題した署名活動を始め、今月16日までに2500を超える署名が集まった。衆院選の結果にショックを受けたという大坪さんは「9条が改憲されれば『戦争放棄』もなくなってしまう。なし崩し的に軍拡が進み、日本の『軍』が再び海外に出て行くという可能性が高まるんじゃないか」と危惧する。
名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学)は「さまざまな活動を通じた民意の可視化は、国民投票で改憲案が否決されるリスクを高市政権に想起させるという点で意味がある」と評価する。その上で「暮らしが良くなるか、平和が保たれるかは主権者である国民が政治にどう関わるかで決まる。国民が政治に積極的に関わろうとする姿勢は、民主主義の基本である国民主権の観点からも望ましい」と話している。
改憲論議の行方 市民の動きがカギに
自民党は2月の衆院選で消費税減税などを掲げて大勝し、改憲に向けた国会発議には衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成が必要となるが、まずは衆院で3分の2超の議席を確保した。高市早苗首相は2月20日の施政方針演説で「(改憲の)国会発議が早期に実現されることを期待する」と発言しており、改憲論議の議事進行を担う衆院憲法審の会長には側近の古屋圭司氏をあて、改憲論議を進展させる態勢を整えている。
野党時代の2012年に公表した自民の改憲草案では、戦力不保持を定めた9条2項を削除し、国防軍保持を明記しており、衆院選公約で掲げた自衛隊の明記など改憲4項目よりもさらに保守色の強い改憲論議を推し進める可能性もある。市民たちは、改憲が発議され、国民投票になったときに、断片的な情報や、お金をかけた宣伝の印象だけで判断しないよう、全文を「2人でも、3人でも一緒に読む」動きを広げていくことを願っている。



