西側の平和追求が戦争のきっかけに、細谷雄一教授がウクライナ情勢の深層を解説
ロシアのウクライナ侵略が始まった当初、イギリスではロシアの継戦能力は長続きしないと見られていた。しかし、慶応大学の細谷雄一教授によれば、数か月後にポーランドやチェコを訪れると、専門家の見方は一変していたという。彼らは、チェチェン紛争のように戦争が10年は続くと想定しており、この認識の違いが強く印象に残ったと語る。
戦線の硬直と人道性を排除したロシアの戦略
侵略から4年が経過した現在、戦線は硬直し、一部地域では膨大な人命が失われ、第1次世界大戦型の消耗戦に陥っている。細谷教授は、ロシアの戦い方が人道性を排除したものであり、自国の兵士がどれだけ犠牲になっても、有利になるまで戦争をやめない姿勢を指摘する。
さらに、今回の戦争は、2014年に始まったウクライナ東部の紛争を止める2015年の停戦合意を、ロシアとウクライナの両国が繰り返し破った帰結でもある。両国の相互不信やナショナリズムが高まっており、容易に妥協できない状況が続いている。出口が見いだせないまま、戦争は長期化の様相を呈している。
冷戦後のユートピア主義とパワーポリティクスの衝突
細谷教授は、現在の対立や紛争の構図をより深く理解する必要性を強調する。冷戦終結後、西側同盟諸国は自由民主主義の広がりや中東欧諸国のEU加入を歓迎していた。民族自決権にのっとり、これが世界平和につながると考えていたからだ。
しかし、このようなユートピア主義的な平和追求は、ナポレオン戦争や第1次世界大戦、第2次世界大戦などの大きな戦争の後には繰り返し支配的になった考え方だと指摘する。一方で、ロシアや中国のようにパワーポリティクスの論理で国際政治を捉える国々には、これらの価値の浸透は米国の勢力圏が拡大する脅威と映った。
細谷教授は、この認識の違いに西側世界が鈍感だったことが、戦争の背景にあったと分析する。皮肉にも、ユートピア主義的な平和の追求が、むしろ戦争のきっかけになったのだと結論づける。
専門家の視点から見た国際政治の現実
細谷雄一教授は1971年生まれで、専門は国際政治学。近刊に『危機の三十年』や『国際連合の誕生』などがあり、国際情勢に深い洞察を提供している。彼の分析は、ウクライナ情勢だけでなく、現代の国際政治における価値観の衝突や紛争の本質を浮き彫りにしている。
戦争が続く中、西側とロシアの間の認識ギャップは依然として大きく、平和への道筋は見えにくい。細谷教授の指摘は、国際社会がより現実的な視点から紛争解決に取り組む必要性を訴えかけている。



