世界の超富裕層の間で、移住先として注目を集める国がある。それはイギリスでもドバイでもシンガポールでもない。彼らは今、国籍そのものを資産として捉え、リスク分散の手段として第二の国籍を取得する動きを加速させている。
国籍を買う時代が到来
投資の世界には「卵は一つのカゴに盛るな」という鉄則がある。富裕層マーケティングの専門家である西田理一郎氏は、この原則が金融資産や不動産だけでなく、国籍にも当てはまる時代になったと指摘する。かつて国籍は空気や水道の蛇口のように当たり前の存在だったが、今や世界の富裕層は「祖国だけを信じるには世界が不安定すぎる」と感じ始めている。
彼らは株式や債券の投資先を分散するように、居住地、税務、教育機会、そして最終的に国籍までも分散するようになった。感情よりも先に、バランスシートが時代の不穏な変化を敏感に察知しているのだ。
国家リスクと個人の依存度
個人の人生におけるリスクは、国家の地政学リスクとその国への依存度の積で決まる。全財産、収入、住む場所が一つの国家に集中していれば、政治不安、増税、インフレ、パンデミック時の国境封鎖などのカントリーリスクを避ける術はない。国家への依存度を意図的に下げるための究極のヘッジが、第二の国籍の取得である。
国籍取得のビジネス化
こうした需要に応えるのが「CitizenX」のようなサービスだ。彼らは国籍を「人生最大級の重要資産」と位置づけ、取得プロセスを近代化。スイスのプライバシー法、エンドツーエンド暗号化、24時間対応のコンシェルジュ、総額の事前開示、スマートフォンでの進捗管理を提供する。支払いはドルやユーロだけでなく、暗号資産やステーブルコインにも対応している。
これは国籍の「D2C(Direct to Consumer)化」とも言える。国家は歴史的な理念であると同時に、移動の自由、居住権、医療・教育アクセス、税制優遇、資産保全、緊急時の退避経路を提供する「サービス体」でもある。富裕層は「愛国心」という幻想を排除し、純粋に機能だけを抽出しているのだ。
主戦場はポルトガル、トルコへ
かつて人気だったマルタは規制強化により選択肢から外れ、現在はポルトガルやトルコが主戦場となっている。これらの国は投資による居住権や国籍取得プログラムを提供し、富裕層の需要を集めている。
この動きは「祖国への裏切り」なのか? 西田氏はそうではないと主張する。単なる移住切符ではなく、グローバルなリスク管理の一環として、合理的な選択が行われているのだ。



