三菱電機「ジェットタオル」、コロナ禍の逆境を技術革新で打破
三菱電機が開発・販売するハンドドライヤー「ジェットタオル」は、強風で手の水滴を吹き飛ばすことで素早く乾燥させる製品です。1993年の誕生以来、オフィスや商業施設のトイレを中心に普及を続け、累計販売台数は96万台に達しています。しかし、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、ハンドドライヤーの使用が一時的に提唱されるなど、大きな逆風に見舞われました。それでも同社は、周囲の空気を清浄化する機能や水滴の飛散を抑制する技術を新たに搭載し、市場での巻き返しを図っています。
「風の中津川」から生まれた革新的なアイデア
ジェットタオルの開発は、1988年に岐阜県中津川市にある中津川製作所で始まりました。同製作所は「風の中津川」と呼ばれ、扇風機や換気扇など、モーターと羽根を組み合わせた製品の開発に強みを持っていました。業務用掃除機のモーターを手がけるチームが新製品を模索する中、「風の力で手の水滴を吹き飛ばせるのでは」というアイデアが浮かびました。当時、主流だった温風式ハンドドライヤーは乾燥に時間がかかり、ペーパータオルは費用や補充の手間が課題となっていました。
開発チームは、手のひらと甲の両面に風を当てる形状を考案し、5年がかりで5~10秒で手が乾くハンドドライヤーを完成させました。初期モデルは作動音が71デシベルと大きく、会話が聞こえなくなるレベルでしたが、店内の音が大きいパチンコ店を突破口として導入が進み、次第に商業施設にも広がっていきました。
静音性と省エネ性の向上への取り組み
さらなる普及を目指し、歴代の開発陣は静音性の向上に注力しました。まず、業務用掃除機のモーターを流用していたものを専用設計に変更し、風の吹き出し口も改良しました。初代の丸形から長方形へ、そして現在は波形へと進化を遂げ、小さな風力でも効率的に水滴を吹き飛ばせるようになりました。
モーターの出力を最適化することで消費電力も改善され、現行モデルでは作動音が57デシベル(銀行の窓口程度)にまで低減され、消費電力は640ワットと初代の半分以下となりました。それでも乾燥時間は4~6秒と高速を維持しています。開発を担当する沢部健司氏(45)は、「速く乾かそうと風量や風速を上げると、音や消費電力の問題がつきまとう。より静かで省エネ性の高い製品を目指し、最適な風の出し方を求め続けてきた」と語っています。
コロナ禍での逆風と新機能開発による対応
2020年、政府の専門家会議がハンドドライヤーの使用停止を提言したことで、ジェットタオルは猛烈な逆風に直面しました。当時は「吹き飛ばされた水滴がウイルスを広げる」という見方が主流で、出荷台数は半分以下に急減しました。これに対し、沢部氏ら開発チームは、エアコンや換気扇に採用されている三菱電機独自の循環換気技術を活用することを思いつきました。この技術は、周囲の空気を取り込み、機器内の放電空間を通すことで、ウイルスや菌、臭いを抑えた空気を循環させるものです。
さらに、水滴が飛び散るのを抑える技術も開発されました。吹き出し口を上下2段構造にし、上側からカーテンのように覆いかぶさる風を出すことで、飛散を抑制する仕組みです。これらの新機能を搭載した新型機は、通常2年かかる開発期間を短縮し、2021年に発売にこぎつけました。沢部氏は、「できるだけ早くより安全なものを届けたかった」と開発の意気込みを明かしています。
市場回復への挑戦と今後の展望
コロナ禍の影響は大きく、売り上げはまだ完全には回復していません。営業担当の高垣義将氏(45)は、「簡単に乾燥できるハンドドライヤーは手洗いの動機付けになる。コロナ禍の間に完成したビルや古い機種のままの施設に売り込みたい」と力を込めています。三菱電機は、1921年に神戸市で創業し、家電から人工衛星まで幅広い製品を手がける総合電機メーカーです。2025年3月期の連結売上高は5兆5217億円、従業員数は約15万人に上り、本社は東京都千代田区に置かれています。
