建設業の人材育成が変化、「見て覚える」から「体系化・IT化」へ
建設業の人材育成、「見て覚える」から体系化・IT化へ

建設業界の人手不足が深刻化する中で、若手の人材育成の方法が変わり始めた。「時間をかけて見て覚える」という従来の慣習では限界に来ており、仕事内容を標準化、体系化することで、短期間で身に付ける方法が模索されている。さらにデジタル技術によって少ない人数での効率的な工事が可能になってきたことで、現場で求められる技術や人材も変わりつつある。

建設業の就業者はピーク時の約7割に減少

日本建設業連合会によると、建設業の就業者は2025年で478万人で、ピークだった1997年の685万人の約7割まで減少した。しかも年齢構成は55歳以上が約37%を占める一方、29歳以下は約11%に過ぎない。今後10年で熟練層が一斉に現場を引退し、「技術を教えられる人」が急速に失われていくことは確実だ。

加えて、24年4月から建設業にも時間外労働の罰則付き上限規制が適用され、これまで残業時間を利用することが多かった「現場で背中を見せながら教える」時間が確保しにくくなった。一方、国土交通省によると、建設投資額(名目値)は官民で26年度に81兆円となり、7年連続で増加する見通しだ。インフラの老朽化や災害復興などで建設需要はふくらんでおり、人材不足はますます深刻になりつつある。

「仕組みで育てる」独自の取り組み

そうした中で今年3月、進和建設工業(堺市)が大阪市浪速区で完成させた10階建てマンションが話題を呼んだ。50坪(約165平方メートル)という狭い敷地の高層建築で難易度が高かったが、現場監督を担当した能見竜馬さん(23)はまだ入社2年目だった。現場監督が一人前になるまでは通常、5~10年かかるとされる。

同社によると一般的なゼネコンでは、現場ごとに設計条件や仕様が異なり、監督は長時間図面を読み込み、工程を一から組み立てる必要があるという。今回、入社2年目での監督を可能にしたのは、「根性論ではなく仕組みで育てる」という独自の方法だ。設計・工程を標準化して建物を「商品」として規格化。工程を9つに分解し、進み具合を可視化することで「だれが担当しても回る現場」を構築した。

能見さんは「工程や役割が整理されているため、自分が何をすべきかが明確」とコメントしている。同社の西田芳明会長は「従来の現場監督は与えられた図面の通りに仕上げることが求められ、そこに個人の手腕が問われた」と指摘。しかし、工事内容を標準化すれば「現場で試行錯誤して勘を磨く」といった時間を節約できる。西田氏は「大学や専門学校で学んだ監督の本来の役割は、新しい技術や工法を建築に応用し、建築の価値を高めることにある」と強調する。

キャリアアップの見える化と処遇改善

若者の建設業界離れを引き起こしたもう一つの要因は「この道でがんばれば何年後にどうなれるか」というキャリアアップの仕組みが見えにくいという構造的な問題だった。建設業界を対象に教育プログラムを提供するハタコンサルタント(名古屋市)の降籏(ふるはた)達生社長は「成長を実感できることが現代の若者を引き付ける鍵。5年で一人前になれば仕事がおもしろくなる」と訴える。

同社は職種や年代ごとに人材養成の工程表を作成。神戸市内の建設会社で現場監督を目指す男性(22)は大阪市内でハタコンサルタントの研修に参加し、「かかわった建物に住んでもらい、よろこんでもらえるようになりたい」と目を輝かせた。

給料や手当などの処遇も他業界より遅れているとされる。官民で19年4月に本格運用が始まった「建設キャリアアップシステム(CCUS)」は、現場で工事に当たる技能者の就業履歴や資格などを登録し、適切な処遇に結び付ける。25年8月末現在で約171万人が登録されている。

デジタル化で現場を省力化

建設現場のデジタル化を進め、作業時間を短縮して人材不足を補う動きも広がっている。工事がデジタル化されデータが集約されれば、「経験」よりも「IT」の能力が求められる時代が来るかもしれない。

土木工事会社のTOTALMASTERS(三重県桑名市)は、ショベルカーの施工支援システムを独自開発。他社にも提供している。「地面をどの深さまで掘るか」「道路や宅地の斜面をどの角度で仕上げるか」などの判断は、長年の経験を持つベテランの感覚や経験に頼る場面が多く、言葉で教えることが難しいという。

同システムはこうした「暗黙知」を組み込んだ。操縦席に設置したタブレット画面でショベルカーの動きを確認でき、「ここまで掘ればいい」という施工ラインが青色で表示される。100現場以上で導入され、施工時間を半分に短縮した実績があるという。同社は「経験とデジタルを組み合わせることで、若い人でも活躍しやすく、少人数でも安全に作業できる現場をつくりたい」としている。将来的には施工データの蓄積による生成人工知能(AI)解析や遠隔操作との連携も視野に入れる。

一方、米ソフトウエア企業のOctave(オクターブ)は、鉄道や道路などの重要インフラの設計から建設、運転、保護までのデータを蓄積し、AIで解析するシステムを構築している。担当者は「工事でトラブルがあった場合、類似事例の情報をシステムから取り出して迅速に対応できる」と話す。

専門家「企業の枠を超えた育成システム構築を」

立命館大の守屋貴司教授(経営学)は、建設業界は介護、観光と並んで労働力不足が顕在化している業界だと指摘する。現場で厳しい作業が求められ、若者が進んで選ぶ職場環境になっていない。工事現場では現場監督と協力会社(下請け)の技能者が緊密に協力する必要があるほか、近隣住民との関係を円滑に運ぶことも必要。最近の若者は濃厚な人間関係を敬遠する傾向があり、ますます建設になじみにくくなっている。

こうした中で今後の人材育成は「見て覚える育成」から「データと仕組みで育てる育成」に転換せざるを得ない。中核になるのがCCUSなどによる技能と処遇の「見える化」だ。また、ICT建機の活用、データ連携などのデジタルスキルも標準装備になる。こうした方向の人材育成を、中小企業が単独で抱える込むのは限界がある。業界団体や民間の養成講座など、企業の枠を超えた育成エコシステムを構築すべきだと提言する。

ただし、現場の状況判断や調整力といった技能の核心部分は人と人の間でしか伝わらないこと、AIを安全に使いこなす人材育成が前提条件になることも付言している。