働くシニアの増加に伴い、60歳以上の労働災害(労災)が後を絶たない。死傷者の3割超を占める中、高齢者の労災対策を事業者の努力義務とする改正労働安全衛生法が4月に施行されてから半年。だが、手間や金銭的な負担から取り組みは道半ばだ。
現場で進む高齢者向け対策
増改築工事が進む福岡空港国内線ターミナルビル。7月下旬、コンクリートをコテでならしていた左官業の藤本光夫さん(77)のヘルメットの右前部には、60歳以上を示す赤いシールが貼られていた。約25社が関わるこの現場では、作業員約500人のうち60歳以上が1割超を占める。シールは、元請けの大成建設(東京)が新しく現場に入る作業員を表すものに追加する形で導入した。
また、転倒を防ぐため暗い場所をなくし、わずかな段差にも黒と黄色の警告テープを貼って注意を促す。藤本さんは「周りから声をかけてもらうことも多い」と感謝する。
対策の効果と残る課題
昨春の着工以来、大規模な労災事故は発生しておらず、工期は約1か月前倒しで進む。作業所長を務める同社九州支店の村上和広さん(50)は「様々な取り組みの効果で作業効率も上がっているようだ。ベテランの職人なしに現場は回らない」と対策の重要性を訴える。
熊本市の住宅型有料老人ホーム「ヴィラ・メルロ」では昨春、70歳代の女性職員が入居者をベッドから車いすに移す際に腰を痛めた。職員の平均年齢は59.4歳で、7割が腰痛を抱えていた時期もあった。負担を減らすため、入居者をベッドや椅子に移す際の支援器具や、掃除用具を運ぶ台車を導入した。施設長の坂本恵志さん(34)は「介護職の新卒採用は難しい。職員がけがしないよう対策したい」と話す。
労災事故の現状と支援制度
働くシニアは、定年延長などを背景に増加している。総務省の労働力調査によると、60歳以上の労働者は昨年、1213万人となり、2005年の2.2倍となった。
これに伴って労災事故も増え、60歳以上の死傷者数(休業4日以上)は昨年、4万2318人と全労働者の31.3%を占め、20年間で人数は2倍超になった。転倒や転落などの労災発生率は30歳代と比べて男性は約2倍、女性で約5倍に上る。休業期間も年齢を増すごとに長期化し、60歳代の約6割が休業1か月以上だった。
厚生労働省は20年、高齢者の労災防止に向けた指針を公表した。中小企業を対象とした上限100万円の補助制度を設け、専門家による職場の安全性の評価や、労働者の負担を軽くする資機材の導入などを促す。



