崩壊した成長神話 ニデック不正会計の闇に迫る
世界的なモーターメーカー「ニデック」で、グループ内に蔓延していた不正会計が明らかになりました。買収巧者として名声を得ていた創業者の永守重信氏。その実像を関係者の証言と第三者委員会の調査報告から深く探ります。
「無責任野郎ばかり!」創業者の怒りと絶対的な権力
2017年4月、ニデック創業者の永守重信氏(当時会長兼社長)は、業績管理部門からの上申書を激怒しながら却下しました。自らの指示とは異なる営業利益の計画案にいらだち、「どいつもこいつもやる気なしの無責任野郎ばかりそろいやがって!全員やめてくれや!こんな人物と一緒に仕事は出来ぬ!」と、怒りの言葉を書類に手書きで加えて突き返したのです。
グループ内での不正会計疑惑をきっかけに設立された第三者委員会がまとめ、3日に公表した調査報告書には、永守氏が部下に投げつけてきた数々の苛烈な言葉が並んでいます。この報告書は、組織の深部に潜む問題を浮き彫りにしました。
創業から急成長 カリスマ経営者の光と影
永守氏は1973年、28歳で日本電産(現ニデック)を創業しました。80年代以降のパソコン普及の波に乗り、手がけたハードディスク向けの精密小型モーターが大成功を収めます。高い業績目標を掲げ、創業以来の「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の精神でも知られ、2014年度には売上高が1兆円を突破。カリスマ経営者としての名声を確立しました。
しかし、その後掲げた「2030年度に売上高10兆円」という大目標と、「営業利益10%未満は赤字と見なす」といった高いハードルが、社内に重い圧力をかけ始めます。10年代に入るとパソコンの普及は頭打ちに。海外企業の買収で進出した家電や車載向けモーターも、絶頂期のHDD向けほどには収益が上がらず、2018年度以降、営業利益率は1桁に留まり続けました。
現場との乖離が生んだ非現実的な数字
元社員は取材に対し、「自分はHDD向けで大成功した。ほかの分野でも頑張ればできるはずだと、永守氏は本気で信じていた」と証言します。トップダウンの高い目標は不変とされる一方、そこから逆算した非現実的な数字と現場の感覚は大きくずれていきました。
ニデックでは、CFOらの下にある業績管理部門が、毎年12月から翌年1月に永守氏の意向に沿った翌年度目標の指針を示すことになっていました。しかし、その後各事業本部やグループ会社が作成する事業計画は、実際のビジネスを前提とするため、指針の水準を下回ることが常態化していたのです。
第三者委員会が「永守氏の絶対性」と表現するように、社内のすべての権限を握る永守氏に逆らえる人は存在せず、管理部門は実力をはるかに超える目標を課される状況が続きました。この構造が、不正会計を生み出す土壌となったことが報告書から明らかになっています。
減損2500億円の恐れと組織風土の課題
不正会計問題により、ニデックは最大2500億円の減損を計上する可能性が指摘されています。第三者委員会は、永守氏の意向を優先する風土が根本原因の一つだと結論づけ、改善計画の提出を求めました。
創業者の強いリーダーシップで急成長を遂げた企業が、その同じ力によってガバナンスの歪みを生み出した実態は、日本企業全体への重要な教訓を投げかけています。報告書が示す「絶対性」と現場の乖離は、持続可能な経営の在り方を問い直す契機となるでしょう。



