原材料費やエネルギーコストの高騰が素材業界を直撃する中、多くの企業が値上げをためらい、収益を削っている。しかし、合成紙大手のユポ(東京都世田谷区)は、あえて値上げを断行し、価格に見合う価値を見出せない用途(園芸レベルやPOPなど)からは撤退する戦略を取る。「ユポでなければならない領域」に資源を集中させ、顧客をスクリーニングすることで収益性を高める強気の経営姿勢だ。
値上げを「度胸試し」に使う、必然性なき用途を捨てる「思い切り」
同社は2019年に創業50周年を迎え、百年企業を目指す「ユポ百年宣言」を掲げた。ただ、宣言はしたものの、その中身をまだ作り切れていなかった。そこで2030年までの中長期経営計画を策定し、数値目標も立てて動き出している。計画通りに進むかどうか、そこに懸かっている。同社は50年の間に、マスで期待される市場から、非常にニッチな機能商品の市場を主戦場とするように変化してきた。その経緯もあって、これまで経営に関する数値をあまり公表してこなかった。
中期経営計画では、計画期間で利益率を倍近くに引き上げる目標を掲げている。かなり大胆な数字だ。機能商品を扱っていますから、マス市場の企業が公表しているROIC(投下資本利益率)などの数値に、プラスアルファを乗せる形で設定した。その数字が本当に達成可能なものなのかどうかは、進めながら検証していくつもりだ。
値上げを「度胸試し」に使う、必然性なき用途を捨てる「思い切り」
本来はそれが理屈だ。ただ、ユポの市場はまだ成熟していない。家の需要が落ちても、ユポは落ちない。景気の影響を受けにくい用途が多く、紙から不況に強いと言われてきた。とはいえ、そこに甘んじていると劣化していく。「今使われているこの用途は、他の分野に展開できないか」「北海道で使われているものを、他県に持っていけないか」。そうやって横展開できる余地は、国内にもごろごろ転がっている。それをやり切った上で、そもそもユポはどこに可能性があるのかという、新しい価値を見つけに行く動きも必要だ。両方をやらなければいけない。
ユポでなければいけない領域に絞っていく。そうすれば価値が上がり、価格も上がり、利益も上がる。なぜユポなのか――つまり、どの機能が評価されているのかが分かれば、あとは顧客が許容する価格帯との擦り合わせだ。そこが合わなければ、ユポではなくても「向こうの安いフィルムで十分」だという話になる。最初のうちは面白いので(いろいろな用途を)追いかけられるが、他の素材が出てくれれば追いかけられる必要はない。
何十年も「ふたをした技術」を掘り起こす、研究所を飛び出す他流試合
技術には、うまくいかなかったものが必ずある。そして、それにふたをしてしまう。終わらせて表に出さず、ずっとふたをしたままにするのだ。そうすると、後から入った人間には、そこに何が入っているのか分からない。だから、何十年もしまい込んできたものを「一度掘り起こせ」と言っている。今の時代に照らしてみると、当時できなかったことが今ならできるケースが結構ある。
家電用の一般的なインクで印刷されるユポは、まさにその例だ。紙ではできないとしてふたをしたものを、もう一度引っ張り出してやらせた。当然最初はできませんでしたが、よく調べると「この技術がある」と分かり、それを使ったらできた。特許にもなった。レシピは持っているものの、製品として出していないものもある。生分解性樹脂を使ったユポがそうだ。顧客がそこまで求めていないのだ。逆に「すぐ溶けては困る」という声もある。溶けるスピードをコントロールするのが難しいのである。
組織や部署という枠を作るのは簡単だ。問題は人をどう動かすかだ。ずっと研究所の中にいたら何も変わらない。だから外に出ろと言っている。世の中を見なければいけない。今、主要なメンバーを対象に社外での研修を実施している。いわば他流試合だ。中にいたら変化のスピードが遅い。外に出て刺激を受け、自分で変わっていくしかない。やれと言われても人は変わりませんから。
ブランド更新は従業員への意識改革の狙いも
もともと同社の従業員は、三菱ケミカルと王子ホールディングスからの出向者だけで構成されていた。プロパー社員を採用し始めたのは1993年ごろからで、その世代は今55歳前後になっている。「これからは君たちの会社になるのだから、もっと自覚を持ってほしい」。その意味を込めている。文化を作るのは彼らだ。悪意のある人間はいませんから、任せて判断させても、そう間違ったことにはなりません。型にはまらない商品を扱っているのですから、社員を型にはめて、これをしなければいけないと縛るべきではない。むしろ型から出ていくべきです。新しいロゴも、四角い枠から一本はみ出したデザインになっている。
コストが上昇する中で、どこまで同社の提供価値が認められるか、ある意味では「度胸試し」だ。ユポでなければ困る顧客層だけが残り、収益性が自然と引き上がっていくのである。