厚生労働省は2026年9月29日、AIと労働市場をテーマにした「令和8年版 労働経済の分析」(労働経済報告)を公表した。労働経済報告は一般経済や雇用、労働時間などの現状や課題を統計データで分析する報告書で、今回は77回目の公表となる。
IT導入期の教訓とAI投資の現状
今回のテーマは「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」だ。報告書は1995〜2004年のIT導入期を振り返り、この期間の日本の実質GDP成長率が年平均1.0%と、米国の3.4%の3分の1程度に留まったと指摘する。IT投資と実質GDPの変動率には正の相関があり、IT投資の遅れが日本の成長を制約した可能性があるという分析だ。
同じ構造がAIでも再現されつつある。報告書によると、日本の個人の生成AI利用率は金融・保険業で26.9%、製造業で33.3%と、いずれも6割前後に達する米国の半分程度に留まる。報告書はIT導入期の教訓を踏まえ、積極的なAI投資の重要性を説く。
AI投資の効果を分ける条件とは
一方で報告書の分析は、出遅れを理由に投資を急ぐだけで終わらない。同じようにAIを利用していても、労働の質の改善を実感できる労働者とできない労働者がいて、その差を生む条件があるという。
報告書が示す答えは、AI投資と連動した人的資本投資だ。報告書の分析によると、雇用者の人的資本投資の取り組み状況別にAI利用後の「労働の質」の改善状況を見た場合、雇用主側がAIと協働するための人的資本投資を実施しているAI利用者は、未実施のAI利用者と比べて、仕事の成果やメンタルヘルス、身体の健康と職場の安全性の面でAIによる改善効果を報告する割合が高かった。報告書はこの結果から、AI投資に関する経営戦略を考える際には、人材戦略を連動させることが重要だと指摘する。
AIと協働する施策、日本は主要国を下回る
一方で日本企業の現状には課題がある。報告書によると、人材戦略を定めていない企業は多く、経営戦略と人材戦略を連動させている企業の割合は低い。AIと協働するための企業施策などを提供していると回答したAI利用者の割合も、日本は26.7%と、OECD平均の36.8%やフランスの37.5%、ドイツの32.3%を下回る。
報告書は総じて、AI投資の「経営戦略」と、AIと協働するための人的資本投資に関する「人材戦略」を連動させながら、双方の投資を推進していくことが肝要だとまとめている。
雇用への影響については、AIが大きな雇用減少をもたらしている証拠は現時点で確認されていないとしつつ、「管理・専門職」「事務職」「現場職」といった職種によって影響が異なる可能性を指摘した。政府として、労働者の希望に応じた円滑な労働移動やリスキリングを支援していくことが重要だとしている。このほか、論理的思考力やコミュニケーション能力など、特定の業務執行の用途に留まらない能力を総称した「メタスキル」の重要性にも触れている。