京丹後市の自動車部品技術が宇宙産業へ、地域の未来を拓く挑戦
京丹後市の技術が宇宙産業へ、地域の未来を拓く

京丹後市のものづくり技術、宇宙産業への新たな挑戦

日本海に面した京都府北部の京丹後市は、「丹後ちりめん」で知られる織物業とともに、自動車部品製造を中心とした機械金属業が盛んな地域です。この地で培われた高度な技術が、今、世界で急成長する宇宙産業への参入を目指す動きにつながっています。地域の伝統を未来へとつなぐ、意欲的な取り組みが始まっています。

地域企業が連携し、宇宙産業への参入を目指す

昨年末、京丹後市内の公共施設で、活発な意見交換が行われました。宇宙産業への本格参入に向けて連携方法を話し合う「タンゴ・ギア」のメンバー15人が集まり、今後の方向性について熱心に議論を交わしたのです。

この組織の中心的存在であるヒロセ工業の広瀬正貴社長(54歳)は、活動の目的について次のように語ります。「京丹後で育った人々が地元で働きたいと思える環境を作ることが目標です。宇宙への夢を実現することで、希望に満ちた地域づくりを目指しています」

危機感から生まれた新たな可能性

広瀬社長の言葉の背景には、深刻な危機感があります。少子高齢化や若者の流出に加え、脱炭素化と電気自動車(EV)化の進展により、燃料系部品を中心とした取引が減少傾向にあるのです。同社では、売り上げの3割を占めていた部品受注が完全にゼロになる事態も経験しました。

「このままでは京丹後全体の未来が危うくなる」という思いから、親しい仲間との対話の中で浮かび上がったのが宇宙産業への参入でした。地元企業が持つ高度な加工技術が、宇宙分野でも応用可能であることが分かったのです。

戦時中から続くものづくりの伝統

京丹後市における機械金属業の歴史は戦時中にさかのぼります。大阪の企業が工場を疎開させたことを契機に、戦後は自動車産業の発展に合わせて集積地を形成。現在では同業者組合に107社が加盟するまでに成長しました。

広瀬社長は地元企業の強みについて「どの会社もものづくりに対して真摯に向き合う姿勢が最大の強みです」と強調します。都心から遠いという地理的不利を克服し、各企業や職人たちは製品の付加価値を高め、確かな技能を磨き上げてきたのです。

最新技術を駆使した宇宙部品の試作

ヒロセ工業では最新鋭の旋盤などの設備を備え、これまでチェスの駒やボード、ティアラといった精巧な加工品を手がけてきました。この技術を応用できないかと考え、宇宙関連企業との関係構築を進め、現在ではロケット発射台の部品試作に力を注いでいます。

「タンゴ・ギア」は2023年に広瀬社長らによって設立され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員や宇宙飛行士の土井隆雄氏を招いたシンポジウムを2度開催。地域全体の機運醸成に努めています。

新たな仲間の参加と技術の深化

最近では、市内の中核企業である日進PREVEOも「タンゴ・ギア」に加わりました。同社は技術力に定評があり、ロケット開発会社からの依頼を受けて、エンジンに燃料を送る装置の部品試作を進めています。完成後はテストを経て、実際のロケットに搭載される予定です。

日進PREVEO企画部上席主幹の吉田直樹さん(49歳)は意気込みを語ります。「宇宙産業は多くの新しい技術を習得できる点が魅力です。地元の若い世代に魅力を感じてもらえる地場産業として育て上げ、地域活性化につなげたいと考えています」

全国各地で広がる地域発の宇宙産業参入

地域の町工場が一体となって宇宙産業に参入する動きは、京丹後市だけではありません。

  • 大阪府東大阪市では、地元の協同組合が2009年に小型人工衛星「まいど1号」の打ち上げに成功。現在も月面を跳躍移動するロボット「まいど2号」の開発を進めています。
  • 福岡県では、2007年に久留米市などの町工場が宇宙産業進出を目指す組織を設立。九州大学発のベンチャー企業と協力し、小型衛星「イザナギ」「イザナミ」の設計・製作に関わりました。

こうした動きは今後さらに拡大する見通しで、政府は国内宇宙産業市場規模を2020年の4兆円から2030年代早期に8兆円へ倍増させる目標を掲げています。

京丹後市の歴史と特徴

京丹後市は近畿地方最北端に位置する自治体で、紀元前から海上交易の拠点として栄えてきました。鉄製品や玉を生産していた工房跡が確認されるなど、古くからものづくりの文化が根付いています。

絹織物の有数の産地としても知られ、布面に独特の凹凸「シボ」を表す丹後ちりめんは高品質な和装生地として高い評価を得ています。人口は約4万9,000人で、100歳以上の割合が全国平均の約3倍という「長寿のまち」としても有名です。

昨年には第1回世界長寿サミットが開催され、プロ野球で活躍した野村克也氏の出身地として、ゆかりの品を展示する施設も存在します。

未来への展望

広瀬社長は今後の展望について「次の世代と地域のために事業を確実に軌道に乗せ、ものづくりの文化を未来へと残していきたい」と語ります。全国各地で競争が活発化する中、京丹後市の挑戦は、地域の伝統技術を新たな産業へと転換させるモデルケースとして注目を集めています。

自動車部品製造で培われた高度な技術が、宇宙という新たなフロンティアへと羽ばたくことで、地域経済の持続的な発展と若者の雇用創出につながることが期待されています。京丹後市のものづくり精神が、地球を越えた宇宙空間で新たな価値を生み出す日が来るかもしれません。