相続放棄の急増が空き家問題を深刻化、自治体の対応に限界
相続放棄された不動産が空き家として放置され、全国の自治体が対応に苦慮している。近隣住民からの苦情を受け、空家対策特別措置法に基づき所有者を特定しようとしても、相続放棄によって権利者が多数の親族に分散し、追跡が困難なケースが増加している。解決までに1年以上を要する事例も少なくない。
大阪府東大阪市の事例:相続人が20人超に拡散
大阪府東大阪市の築約50年の木造2階建て住宅では、6年前に近隣住民から「ゴキブリが大量発生している」との苦情が市に寄せられた。市空家対策課が調査を開始したところ、登記上の所有者は約40年前に死亡していた。
妻子が相続人となるはずだったが、妻も数年前に死亡。前妻との2人の子はすでに相続放棄していた。次に相続権が生じる男性のきょうだいは全員が他界しており、権利者はその子や孫ら20人以上に広がっていた。
同課が各地に暮らす相続人一人一人と連絡を取ったところ、多くの人が相続権があることを認識しておらず、「男性を知らない」といった反応が返ってきたという。最終的に妻の親族が相続し、2023年に住宅を処分するまでに長い時間を要した。
大田夏絵課長は「相続人が複雑化した事例は多く、市から手紙を送ると『詐欺ではないか』と疑われることもある。相続人への意思確認は不可欠だが、時間がかかってしまう」と語る。
神戸市でも同様の課題、相続放棄が増加傾向
神戸市安全対策課によると、相続放棄によって相続人が増加し、特定できても被相続人との関係が薄いため協力を得にくく、解決が難しい状況が続いている。相続人全員が放棄しているケースもあるという。
団塊の世代が後期高齢者となり相続自体が増える中、相続放棄も急増している。民法に基づく相続放棄の家庭裁判所への申し立て受理件数は、2018年の21万5320件から年々増加し、2024年には30万8753件に達した。
活用の見込みがない不動産は、所有し続けると毎年固定資産税がかかるため「負動産」とも呼ばれる。土地の価格が低い地方の不動産を中心に、相続放棄が少なくないとみられ、これが空き家増加の一因となっている。総務省によると、空き家は2023年時点で過去最多の約900万戸に上った。
専門家が指摘する制度上の課題
相続に関する書面作成を請け負う「グリーン司法書士法人」大阪事務所の中川徳将代表は「不動産の相続を重荷に感じる人は一定数いる」と明かし、「相続放棄にあたっては、新たに権利が生じる親族に事前に説明するなどし、トラブルを防ぐことが重要だ」とアドバイスする。
自治体担当者が特に課題として挙げるのが不動産登記の問題だ。家庭裁判所で相続放棄が認められても登記には記載されず、自治体は調査の際、放棄されているかどうかを家裁に問い合わせる必要がある。複数の自治体の担当者によると、照会結果の回答まで1~2か月程度かかり、対応に時間を要する原因になっている。
土地制度に詳しい東京財団の吉原祥子マネージャーは「相続放棄は本来、負債から相続人を守るための制度。『負動産』対策として使われることを想定していない」と指摘。「自治体が迅速に把握できないのは制度の欠陥だ。相続放棄の記録は登記や戸籍に明記するのが望ましい」と提言している。
空家対策特別措置法の現状と課題
2015年に施行された空家対策特別措置法では、自治体が倒壊などの恐れがある「特定空き家」や「管理不全空き家」について所有者に指導や勧告を行うこととされている。国土交通省によると、2025年3月末時点で、除去や修繕などの対応が取られた空き家は計約19万5000件。
しかし、相続放棄などで所有者がいない場合、自治体は裁判所に財産管理人の選任を請求し、処分や修繕を実施する必要がある。この手続きにも時間と労力がかかり、問題解決が遅れる要因となっている。



