亡き祖父の旧宅をホテルに再生、安芸市で1日2組限定の宿
亡き祖父の旧宅をホテルに再生、安芸市で1日2組限定

高知県安芸市井ノ口の田園地帯に、1日2組限定のホテル「HOTEL MONONOBA(モノノバ)」がある。漆喰壁と水切り瓦の土佐建築で、20年近く空き家だった祖父・勲さん宅を改修したものだ。改修したのは、1級建築士の楠目晃大さん(34)。

祖父への敬慕が原動力に

楠目さんは京都市で生まれ育ち、長期休みには家族や親戚とともに勲さん宅を訪れていた。いつもいかめしく、幼い身には話しかけられなかったが、開業医として患者を診続ける姿を尊敬していたという。小学生の時に勲さんは亡くなったが、高校時代に高知市へ転居すると、友人と自転車で旧宅を訪れることもあった。

神戸大学と大学院で建築を学び、建物を見る目を養った。大黒柱や天井板の材質の良さ、白木を生かした2階建ての母屋、焦げ茶色の柱に白壁の別棟に感心し、「直線的な設計で、張り詰めた空気。悪く言えば『圧』ですが、特徴の異なる2棟を調和させた設計者の力に感心しました」と振り返る。やがて「人が集まる場としてよみがえらせる」との思いが芽生え、敬慕の念を形にしたいと考えるようになった。

移住を決意し改修に着手

2020年に1級建築士の資格を取得し、空き家だった祖父宅の再生を目指した。当初は3か月に1度、神戸市から通って掃除や家財道具の整理、計測を続けたが、「片手間」では実現しないと悟り、2023年に安芸市へ単身移住。長女が生まれたばかりだったが、妻の悦子さん(34)は「お互い、やりたいことがあるよね」と決断を尊重した。

改修作業では、母屋の内壁の緑色が気になったが、よく見るうちに「緑といっても濃淡、陰影がある。山の木々と庭の植栽の色彩を室内に引き込むためだ」と気づき、そのまま残すことにした。正門と玄関の間には、改修で出た廃材で造ったオブジェを配し、あえて迂回させることで前庭が目に入るようにした。地域の人や友人との「おきゃく」(宴会)に使われた客間は食堂に改修しつつ、欄間や床の間、緑の壁は残した。

家具も手がけ、開業後は評価の声

客室やロビーの椅子、机も自らデザインした。ステンレスの一枚板を曲げたソファは、座ると体重に応じてたわみ、「空間の歴史やモノの意外さに触れることで、固定観念を覆してほしい」との思いが込められている。「モノノバ」の名も「モノの場」に由来する。

今年4月の開業イベントでは生け花の体験会や染め物、陶器の個展を開催。今後はカフェやジム、コワーキングスペースもつくりたいとし、「どれもお金を生みそうにありません。そのためにも、ホテルを事業として成り立たせないと」と話す。週末を中心に宿泊客が増え、「建築も家具も個性的。なのに空間全体として調和している」などの評価が寄せられている。建築士としての仕事も再開し、地元の設計コンペに応募した。

現在は月に2回、悦子さんが僧侶を務める島根県美郷町で家族と過ごす。「暮らし方を模索中です。長女がお母さん大好きっ子で――」と苦笑いを浮かべた。