南鳥島沖の海底レアアース採掘に成功 政府目標量達成でも商業化への道険しく
レアアース(希土類)の自国供給を目指す政府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)研究チームは、東京・南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内の海底から、レアアースを含むとみられる泥の引き揚げに成功したと正式に発表しました。この成果は、中国への依存度が高いレアアース供給体制の見直しに向けた重要な一歩と評価されています。
海底と陸上レアアースの根本的な違い
東京大学エネルギー・資源フロンティアセンター長の中村謙太郎教授は、「陸上と海底では、レアアースの生成過程と物理化学的特性が根本的に異なる」と指摘します。陸上鉱山のレアアース鉱石は火山活動に由来する岩石が起源となる場合が多く、放射性元素であるトリウムやウランが混在しやすい特徴があります。
この放射性物質の存在が、採掘時の粉塵問題や精製工程で発生する廃水・廃泥の処理を複雑にし、環境規制の厳しい先進国での開発を困難にしてきました。中村教授は「中国がレアアース供給で支配的な地位を確立できた背景には、こうした処理の難しさに加え、同国の環境規制の緩さがあった」と分析しています。
一方、南鳥島沖で発見された海底レアアース泥は、魚類の歯や骨に含まれるリン酸カルシウムが、海水に溶解したレアアースイオンを長期間にわたって吸着・蓄積して形成されたものです。最大の利点は、放射性元素をほとんど含まないため、採掘や輸送時の健康リスクが低く、放射性廃棄物処理の負担が軽減される点にあります。
巨大な埋蔵量と技術的ハードル
中村教授らの研究チームは2013年の調査で、南鳥島EEZ内の約2500平方キロメートルの海域に、1600万トンを超えるレアアースが存在すると推定しています。これは日本の年間消費量の数百年分に相当する膨大な量です。
しかし、商業化に向けては深刻な課題が横たわっています。まず、水深約6000メートルという極深海からの泥の引き揚げには、超高水圧・低温環境に対応した特殊な採掘技術が必要です。海底の泥は石油のように自噴しないため、能動的な採取システムの開発が不可欠となります。
さらに、採取した泥からレアアースを効率的に分離・精製する国内技術の確立も急務です。現在、レアアースの精製プロセスは中国企業が高いシェアを握っており、日本独自のサプライチェーン構築には多大な投資と時間を要すると見られています。
採算性と民間参入の可能性
政府はレアアースの自国供給率向上を目標に掲げていますが、仮に目標量を達成できたとしても、民間企業が採算ベースで事業を継続できるかは不透明です。深海採掘には巨額の設備投資が求められ、精製コストも陸上鉱石と比較して高くなる可能性があります。
国際市場では中国産レアアースの価格競争力が依然として強く、日本産海底レアアースが価格面で対抗できるかは未知数です。政府関係者は「技術実証は成功したが、すぐに商業化に結びつくわけではない。官民連携による持続可能なビジネスモデルの構築が次の課題だ」と慎重な見方を示しています。
南鳥島沖のレアアース開発は、資源安全保障の観点から重要な進展ではあるものの、実用化までには技術的・経済的障壁を乗り越える必要があり、今後の研究開発と政策支援が成否を分けることになりそうです。



