共同親権制度の導入で深刻化するDV問題の見極め難しさ
2026年3月30日から離婚後の「共同親権」が可能となり、子どもの養育に関するルールが大きく変わります。離婚時に父母が話し合い、共同親権か単独親権かを選択できるようになります。すでに離婚して単独親権となっている場合でも、家庭裁判所に変更を申し立てることが可能です。しかし、この新制度の実施を前に、子どもに関わる様々な現場では戸惑いと懸念が広がっています。
外面の良い加害者とDV認定の難しさ
東京都内に住む51歳の女性は、14年間にわたり3歳年下の夫から家庭内暴力(DV)を受けてきました。国際機関に勤務する夫は、日常的に「お前が悪い」と責め立て、殴る蹴るの暴力を振るっていました。数年前に「もう限界」と感じた女性は、2人の子どもを連れて別居に踏み切りました。
子どもの進学先などを決定できるようにするため、監護者を定める調停を申し立てたところ、女性の単独監護が認められました。しかし、これに対抗するように夫は離婚調停を申し立て、条件面で折り合わず、現在は訴訟に向けた準備が進められています。
改正民法では、配偶者へのDVや子どもに対する虐待の恐れがある場合、必ず単独親権にすることが定められています。しかし、女性の不安は消えません。警察や行政に相談しても、明確にDVだと認められなかった経験から、「夫は社会的評価が高く外面が良い。共同親権を求めた場合、裁判所はDVを認めて単独親権にしてくれるでしょうか」と疑問を抱いています。
裁判所の判断基準に懸念の声
国会では「家庭裁判所がDVや虐待の危険性を正確に見抜けるのか」「担当者によって判断にばらつきが生じるのではないか」という懸念の声が上がっています。離婚の裁判では4月以降、裁判官が離婚を認めるかどうかに加えて、共同親権か単独親権かの判断も行うことになります。
最高裁判所は共同親権の導入に向け、家庭裁判所の裁判官らを対象に、心理学の専門家の講義を聞いたり、架空の事例を用いてDVや虐待の認定について検討したりする研修を実施してきました。
さらに、2025年度から2026年度にかけて、親権を定める際に子どもの意見や状況を調査する家庭裁判所調査官(定員約1600人)を計15人増員する計画です。地方裁判所や高等裁判所で刑事や民事を担当する裁判官を家庭裁判所に配置転換するなど、体制の強化が図られています。
学校現場での混乱が予想される
共同親権のもとでは、子どもの進学先や住居など重要な事項を父母が話し合って決定する必要があります。関東地方の公立中学校の校長は、学校現場で混乱が生じないかと心配しています。
例えば進学先を事実上決定する書類への署名について、共同親権の場合、父母双方の同意が必要となるのか、それとも一方の署名で足りるのか、明確な指針が求められています。同様の課題は医療現場でも発生する可能性があり、緊急時の治療同意など迅速な判断が求められる場面での対応が懸念材料となっています。
リスクアセスメントの重要性
専門家は、DVの危険性を正確に把握するためには、体系的なリスクアセスメント(危険性評価)が不可欠だと指摘します。表面的には問題がなく見える場合でも、心理的圧迫や経済的支配など、目に見えにくい暴力の形態を見逃さないための専門的知識と経験が求められます。
新しい制度の施行までに、裁判所関係者だけでなく、学校教職員、医療従事者、行政担当者など、子どもに関わる多様な専門家に対する研修の充実が急務となっています。子どもの最善の利益を守るためには、制度の運用面での課題解決が不可欠です。



