「魔男のイチ」誕生秘話:西修×宇佐崎しろが語る、世界初の“男の魔女”漫画の魅力
魔法を使える魔女――ではなく“魔男(まだん)”。週刊少年ジャンプ(集英社)で2024年から連載が続く漫画「魔男のイチ」は、世界初の「男の魔女」になった少年が主人公の物語です。累計発行部数は150万部(電子版含む)を突破し、「次にくるマンガ大賞」コミックス部門で1位を獲得するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を集めています。3月4日には最新7巻が発売され、原作の西修さんと作画の宇佐崎しろさんに、貴重な制作秘話を聞きました。
魔法が生き物として存在する世界観の構築
この作品の舞台は、魔法が生き物であり、困難な試練を突破することで習得できる世界です。魔力を持つのは女性のみで、男性が魔法を扱うのは不可能とされていました。そんな中、狩人だった主人公のイチはひょんなことから「王の魔法(キング・ウロロ)」を習得し、世界初の“男の魔女”となります。
西修さんは着想のきっかけについて、「『魔女』という言葉があるのになぜ『魔男』はないんだろうと思ったんです」と語ります。当初は魔女になりたい男の子と、魔女を守る騎士の2人が主人公でしたが、魔法が生き物として存在する世界のほうが面白いと考え、設定を変更しました。イチは、飛び抜けた能力を持つよりも、狩りにしか興味がない純粋な少年にすることで、物語に深みを持たせたのです。
独特の死生観とキャラクター造形
イチは「死対死(しついし)」という独特の死生観を持ち、相手が殺意を向けない以上、自分からも殺意を向けないという原則を貫きます。西修さんは、「イチは夢もやりたいこともない、ただ毎日生きているだけの存在です。代名詞として『目には目を、歯には歯を』というハンムラビ法典ふうのわかりやすい概念を採用しましたが、これが正しいかはまだわからない。危ない考え方なので、成長過程が楽しみです」と説明します。
作画を担当する宇佐崎しろさんは、西修さんのネーム(コマ割り構成)について、「構図や演出までしっかり見えるので、キャラクターの顔を好感度高く描くことを心がけています。ファンタジー作品なので、画面を豪華に仕上げるよう努め、毎週ヘトヘトですが楽しく描いています」と語りました。
魔法のアイデアとキャラクターの進化
作品に登場する魔法は、火や木、氷といった属性を基に、子供でもわかりやすい形で表現されています。西修さんは、「場面に応じてテンションが上がる使いやすそうなものを漢字にして、動物や現象にしています」とアイデアの源泉を明かします。
特に、イチが最初に習得する「王の魔法」は、ラスボス級の力を初登場で出すという大胆な設定です。西修さんは、「『ハウルの動く城』のような場面をやりたくて、木の間に生き物がズドンといるイメージでした。玉座は宇佐崎先生のアイデアです」と振り返ります。
一方、ラスボスである「反世界の魔法」は、イチと正反対の見た目で、当初は笑っている優しげな男子として描かれていました。しかし、宇佐崎さんのデザインが冷たい目をしたものに変わり、西修さんは「こっちがいい!」と即決したそうです。宇佐崎さんは、「冷たい顔のほうがいいなと思いました。最近では『爆蛸(ばくそう)の魔法』の幾(きざし)が好きで、動きをつけやすいデザインです」と語ります。
コンビ結成の経緯と制作へのこだわり
西修さんは週刊少年チャンピオンで「魔入りました!入間くん」を連載しており、ある程度ネームが固まった段階で、宇佐崎さんに作画をオファーしました。宇佐崎さんは、「別の人が描いたら悔しくなるかもと思い、一度会って話す機会をもらいました。いただいたネームが面白かったんです」と当時を振り返ります。
西修さんは、「ジャンプで宇佐崎先生が作画をやってくれるなんて、理想的なことです。『入間くん』は安定していますが、ジャンプは毎週気を抜いたら刺されると思っています。刺激的で、危機感を持って仕事ができています」と語り、宇佐崎さんも「8年連載してまだ危機感がほしいってすごいですよね(笑)」と笑いを交えました。
漫画家としての原点と影響
宇佐崎さんは幼稚園の頃から漫画を読み、小学5年で「ONE PIECE」に夢中になり漫画家を志しました。高校では美術部でデッサンを学び、SNSにイラストをアップしていたところ、前作の原作者から声がかかりデビューしました。西修さんも高校時代に美術部で漫画家志望の友人と過ごすうちに漫画の道へ進み、賞応募を経て連載に至りました。
影響を受けた漫画家として、宇佐崎さんはCLAMP先生の「ツバサ」と草凪みずほ先生の「NGライフ」を挙げ、西修さんは平野耕太先生の「HELLSING」の熱量とセリフのキレを賞賛しました。
今後の展望と読者へのメッセージ
西修さんは、「読んでもらえると思うな」という念頭で制作に臨み、読ませるものを作るために丁寧なコマ作りを心がけています。宇佐崎さんも、わかりやすさを重視し、絵でも読みにくさを減らすように努めています。二人は相乗効果を感じており、「この作品でしか味わえないものを読者に届けたい。行けるところまで行きたいので、たくさん応援してください!」と熱く語りました。
「魔男のイチ」は、魔法と人間の絆を描きながら、自由度の高い物語を展開しています。今後の展開にも注目が集まります。
