インティマシーコーディネーターが映画・ドラマの性的描写シーンで俳優の安全を守る
インティマシーコーディネーターが俳優の安全を守る役割

インティマシーコーディネーターが映画・ドラマ撮影で俳優の安全を確保

映画やテレビドラマには、性的描写を含む様々なシーンが存在する。こうした場面で俳優の身体的・精神的安全を守る専門職として、インティマシーコーディネーターの役割が注目を集めている。多賀公英さん(36)は、日本でこの職務に携わる一人だ。

脚本の詳細な分析と監督との調整

多賀さんは、脚本を入手すると丁寧に読み込み、肌の接触や露出が想定されるシーンを全てリストアップする。その上で、監督から演技のイメージを細かく聞き取る。「このキスはどんなキスですか?」「ソファの上で親密そうにふれあうとは、具体的に何をしますか?」といった質問を通じて、脚本だけでは分からない演技の細部を確認する。

軽いキスなのか抱き合いながらの情熱的なキスなのか、「親密そう」な場面の距離感や体勢は――。これらの詳細を俳優に正確に伝え、できること、できないことを確認し、同意を得る。できないことについては、俳優と一緒に代案を考えて監督に示し、双方が納得して撮影に臨めるようにしている。

「俳優の身体的・精神的安全を守りながら、監督の意向もくみとり、作品に必要不可欠なシーンを描ききってもらうのが、自分の役割」と多賀さんは語る。

米国での経験と日本での導入

多賀さんは2014年から1年間、米ニューヨークで映画を学び、帰国してから映像の仕事に就いた。数年前、自らが監督する作品を企画した際、性的な描写を入れたいと思ったが、撮影経験がなく、役者に負担をかけることなくリアルなシーンを撮影する方法に悩んだ。

そんなときにインターネットで偶然見つけたのが、インティマシーコーディネーターという仕事だった。米国の大物映画プロデューサーによるセクハラ疑惑をきっかけに、セクハラ被害を告発する「#Me Too」運動が盛んになった頃、同国で導入が進んだとされる。

「重要な仕事で、これから監督業を続ける上でも役に立つ」と思い、日本に導入されて間もない養成講座を2024年に受講。ジェンダーやハラスメント、映像知識を学び、資格を得た。これまでにインティマシーコーディネーターとして約20作品に携わっている。

現場での環境づくりと課題

現在も、映画やドラマの製作現場で権限を持つ人の多くは男性だ。監督やプロデューサーと俳優との間で上下関係が生まれやすいとも感じる。多賀さんは、撮影前の調整だけでなく、現場でも最小限の人数で撮影できるようにするなど、「俳優が安心して演技に臨める環境づくりを心掛けている」と強調する。

予算の制約もあり、全ての作品でインティマシーコーディネーターが起用されているわけではないが、人権意識の高まりなどから、その存在や役割に対する理解は広がっていると感じている。「よい作品は、よい労働環境から生まれる。これからも重要な撮影スタッフの一員として多くの仕事に関わっていきたい」と意欲を示す。

映画業界の労働環境調査

映画界の労働環境や男女間格差の改善などに取り組む一般社団法人「Japanese Film Project」(JFP)は2022年、俳優や製作スタッフら男女約680人を対象に映画業界の労働実態について調査した。

報告書によると、10~30代の女性の回答で多かったのが、監督やプロデューサーの地位を利用したセクシュアル・ハラスメントの被害。中には、「ベッドシーンを説明もなく無防備な状態で強制的に撮影された」という記述もあった。

映像作家で、JFP代表理事の歌川達人さんは「セクハラは人権侵害行為で、製作サイドには防止策を講じる義務がある。業界内で研修を行ったり、問題が生じた際の対応機関を整えたりする必要がある」と指摘している。

3月8日は国際女性デーであり、女性の社会参加を促し、地位や権利の向上を目指す日だ。誰もが生きやすい社会の実現に向けて、ジェンダー格差の解消や貧困・暴力などの問題解決に取り組む人たちの活動が続いている。