歌って、踊って、指揮をして。テノール歌手のプラシド・ドミンゴが7日、東京・渋谷のNHKホールで、日本デビュー50周年の記念コンサートに臨んだ。85歳にしてオーケストラをバックに生声を響き渡らせる、唯一無二のエンターテイナーぶりを披露。公演前には朝日新聞のメールインタビューに応じ、「聴衆の皆さんが喜んでくださる限り歌い続けます。声はまだ健康ですし、情熱も揺らいでいません」と述べた。
芸術性と大衆性、軽やかに垣根超える美声
情念と軽み、芸術性と大衆性。様々な垣根をなきものとして人々の心を結ぶ、粋人の本領を目の当たりにしたコンサートだった。
前半は19世紀のオペラ。深い憂いをまとう、持ち前の美声は健在。ヴェルディの「マクベス」やジョルダーノの「アンドレア・シェニエ」などの名アリアの数々を劇的に歌いあげた。
後半は一転、自身の故郷スペインの歌芝居サルスエラの歌で温かな風を吹かせた。ヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」序曲では、ちゃめっ気たっぷりのしぐさで指揮台へ。しっとりとした歌い回しに自然な諧謔(かいぎゃく)をまぶし、大団円へ。聴衆を大いに沸かせた。
共演した若きキューバ系米国人のソプラノ、モニカ・コネサは陽光のように明るく、厚みと輝かしさを兼ね備えた稀有(けう)な声の持ち主。デュエットからダンスへ、ドミンゴがさりげなくエスコート。すべての所作から品格がにじみ出る。
欧米の歌劇場の来日公演も、「3大テノール」も
1976年、初来日。クラシックをふだん聴かない人は「3大テノール」のメンバーとして。オペラが好きな人は、ヴェルディ「オテロ」のタイトルロールなど数々のドラマチックな名唱で。誰もがそれぞれの人生の中で、ドミンゴという名を心に刻んできた。
ミラノ・スカラ座やメトロポリタン歌劇場など世界の名門劇場で主役を務め、その圧倒的な歌唱力と表現力でオペラ界に金字塔を打ち立てた。また、三大テノールとしてルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラスと共に、クラシック音楽を世界中に普及させた功績も大きい。
今回のコンサートでは、50年のキャリアを凝縮したプログラムが組まれ、観客はその芸術性とエンターテインメント性の融合に酔いしれた。ドミンゴは終始笑顔を絶やさず、時折ユーモアを交えながら、観客との一体感を大切にした。
「これからも、皆さんが喜んでくれる限り歌い続けます」という言葉通り、彼の情熱は衰えを知らない。85歳を迎えてもなお、新たな挑戦を続けるドミンゴの姿は、多くの人々に勇気と感動を与えている。



