岡山県倉敷市の銭湯「えびす湯」は、創業から100年を迎える。浴槽と床に御影石が使われているのが特徴で、その石はお笑いコンビ「千鳥」の大悟さんの出身地として知られる笠岡市の北木島で産出された「北木石」だ。
JR倉敷駅から歩いて約10分、美観地区にも近い静かな住宅地に、大きな煙突が目立つ建物がある。軒先には「健康浴 石風呂」と書かれた小さな看板がかかる。えびす湯は、昔ながらのたたずまいを守り続けてきた銭湯だ。
女将の宮川ツチエさん(93)に代わり店を切り盛りする娘の表家由美子さん(64)は「創業当時のことは分からないことも多いんですが、建物も浴槽も当時のままと聞いています」と話す。
大正創業、昭和初期に買い取られ現在に至る
もともと大正年間に開業した銭湯を、宮川さんの親族が昭和初期に居抜きで買い取った。以来、燃料が薪から重油になった以外はほとんど何も変えずに営業を続けてきたという。
脱衣所の木製ロッカーは、扉の裏に貼られた製薬会社のステッカーも当時のまま。冷蔵庫や体重計、温度計も、古いものを大切に使い続けてきた。レトロな雰囲気が漂う。
倉敷市の中心部とあって、風呂がない家庭は周囲にほとんどない。それでも古くからの常連に加え、レトロ好きの若者や美観地区の観光客など遠方からも人々が訪れる。海外から足を運ぶ人も少なくない。
北木石の浴槽は「体の奥まで熱が伝わりやすい」
浴場にはサウナや電気風呂、薬湯といった設備はなく、シンプルな浴槽が男湯、女湯ともに一つずつあるだけ。だが「石風呂」を名乗る通り、御影石でできた浴槽こそが一番のこだわりだ。
産地は北木島。島で産出される御影石は品質の高さから北木石と呼ばれて珍重され、古くは大阪城の築造にも使われたという。自慢の浴槽は巨大な北木石をくり抜いて造られ、浴場の床にも北木石が敷きつめられている。
番台から湯の管理、清掃まで担う植月恵子さん(65)は「天然の石だと体の奥まで熱が伝わりやすいんです。タイル張りと違って滑らないし、足が冷たいこともない」と説明する。
お湯の温度は41度。浴槽は深めで、優にへそまでつかる深さだ。自転車で通っているという男性(52)は「冬は湯冷めしないし、夏でも湯上がりに汗だくにならないのは石風呂ならでは」と魅力を語る。
コロナや燃料高を乗り越え、キャッシュレス決済も導入
ただ、経営は決して楽ではない。5年前には新型コロナウイルス禍で客足が激減したのに加え、ボイラーが不調になった。周辺機器も含め2000万円近くかけて交換したが「一時は店をやめようかと思った」(表家さん)という。
今年になってからは、中東情勢の混迷も影を落としている。重油の値上がりのため、6月には週休2日にしたこともあった。設備の更新や燃料代が負担となり廃業する銭湯が相次ぐ中、利用客からはSNSでの発信に力を入れたり、オリジナルグッズを製作したりしてみては、という提案もある。
そうした声も取り入れ、キャッシュレス決済を導入した。外国人客にも好評だという。植月さんは「銭湯は体も心も温まるパワースポット。お客さま同士が交流する場でもある。そうした場所を守っていきたい」と力を込めた。



