漁師町で暮らす猫のケンジが、今もネズミを狩る姿を見せている。ごはんをもらい、日陰で昼寝をする日々の中でも、狩りの本能はしっかりと残っているようだ。
ネズミを待ち伏せする巨体
猫といえばネズミをとるものだが、今ではネズミを見たことすらない猫も多い。しかし、浜の漁師さんの猫たちは今でもネズミを狩る。ケンジもその一匹だ。
以前、近所のおばちゃんに「ドラちゃんが、うちの庭でネズミをとってくれたの。それを目の前で見てからファンになったのさ」と言われたことがある。ドラちゃんとはケンジの別の名で、知らないところで町内のネズミ退治に一役買っているらしい。
ケンジが土壁に向かって微動だにしないときは、たいていネズミの巣穴を見張っている。あの巨体で息をひそめているつもりなのか、ネズミにはたぶん最初からバレているが、それでも待ち伏せを続ける。
狩りに成功した日のケンジ
成功率はそれほど高くないが、一度だけ狩りに成功したことがある。捕まえた瞬間こそ見逃したが、ネズミをくわえたケンジはものすごい勢いでお父さんのところへ走っていった。「見て! オレ、とったどー!」とでも言いたげに。
ケンジはそこからネズミを放しては追いかけ、飛びつき、しまいには垂直ジャンプまで披露した。いつもののっそりした姿はどこへやら、目を輝かせ、見たことがないほど嬉々として遊んでいた。その姿を見ながら、「ケンジも猫なんだなぁ」と当たり前のことに妙に感心した。
散水栓のトガリネズミを察知
つい先日のこと、庭の散水栓ボックスをケンジが真剣な顔でじっと見つめていた。「そんな穴、でっかいケンジには入れないよー」と笑っていたら、しばらくしてケンジはさっと踵を返し、日陰で昼寝を始めた。あまりに真剣だったので気になって中をのぞいてみると、毛の生えた小さな生き物がウヨウヨしている。
調べてみると、トガリネズミの仲間だった。名前にネズミとつくが、モグラに近い生き物で、種類によっては唾液に毒をもつという。私には何もわからなかったのに、ケンジにはちゃんとわかっていたのだ。
猫がネズミをとる。そんな昔ながらの光景を、ケンジ界隈では今もよく見る。ごはんをもらい、お父さんに甘え、日陰でのんびり昼寝をしていても、その体の奥には昔から猫が持っていた「狩る」という本能がちゃんと残っている。それが人間の役に立っているのなら、猫なりの恩返しなのかもしれない。漁師町の猫は、今もちゃんと仕事をしている。まあ、散水栓のトガリネズミは、見つけただけで寝たけどね。



