映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』が8月7日から全国公開されている。汐見夏衛さんの人気小説が原作で、3年前の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の続編だ。主人公の加納百合を福原遥さんが続投し、監督は新城毅彦さん、脚本は山浦雅大さんが担当した。
あらすじと続編としての特徴
前作で現代の女子高生だった百合は、終戦間近の昭和20年にタイムスリップし、特攻隊員の佐久間彰(水上恒司さん)と恋に落ちる。悲しい別れの末、現代に戻った百合は、特攻資料館で彰の手紙を見つけ、平和の尊さを知る。
『あの星…』の舞台はそれから7年後の現代。百合は彰の夢を継いで高校教師になり、臨時的任用教員の宮原涼(細田佳央太さん)と出会う。涼に好意を抱きつつも、彰のことが忘れられず告白を断る百合。戦時中の友人・千代(倍賞千恵子さん)と再会し、彰から託された本を渡される。千代に背中を押された百合は、夏祭りの夜に新たな一歩を踏み出す。
映画のあらすじは原作と大きく異なり、原作にない人物も登場する。81年前と今をつなぐ伏線が張られ、続編としての完成度は原作を上回るかもしれない。前作を見てから鑑賞することをお勧めする。
「恩送り」と平和教育
映画のもうひとつのテーマは「恩送り」だ。誰かから受けた恩をその人ではなく別の人に送ることを指す。涼が百合にこの言葉を教え、百合は戦時中に得た恩を教え子に返すため、特別授業を企画する。特攻隊員の遺書を生徒たちが読み上げ、最初は興味がなかった生徒たちも次第に引き込まれていく。
授業の最後に、百合は千代から渡されたニーチェの哲学書の一節を紹介する。「世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。ひたすら進め」――夢を持つ尊さと、平和と自由の大切さを伝えることが百合の恩送りだ。
戦争PTSDの描写
映画は原作になかった戦争PTSDも描く。若き日の千代(出口夏希さん)は、特攻隊員の石丸智志(伊藤健太郎さん)を失い、設計技師の藤谷林吉(井之脇海さん)と見合い結婚する。林吉は理想的な夫だったが、実はPTSDに悩んでいた。
『大東亜戦争陸軍衛生史』によると、戦場での過酷な体験で心に傷を負い、精神病や神経症を発症して死亡した兵士は、昭和20年までの4年間で67万人にのぼる。軍は「皇軍に神経症なし」としてその存在を否定し、厚生労働省が実態調査を行ったのは2年前で、復員後の元兵士や民間人は含まれていない。
戦争PTSDを正面から扱う米国映画は多いが、日本の戦争PTSDを若い世代向けに描く映画は珍しい。戦争が破壊するのは死傷者数や建物被害だけではないことを示し、特攻以外の視点を提供している。
原作者・汐見夏衛さんの思い
原作者の汐見夏衛さんは、元高校教師として平和教育に携わった経験がある。作家転向のきっかけとなった『あの花…』も平和教育のために書いたという。
映画の設定変更について、汐見さんは「すべて納得し、いい作品に仕上がった」と語る。原作では百合は中学生から大学生だが、映画では最初から高校教師だ。前作の影響と、幅広い世代の共感を得やすいという判断があるという。
特に評価するのは戦争PTSDの追加エピソードで、「無事に生き残りさえすればいいわけではなく、その後も通常の生活が取り戻せなかった人がたくさんいたことは、ぜひ知ってほしい」と話す。
教員時代、特攻の話をしても「知覧」を知らない生徒がほとんどだったという。教科書の記述は数行しかなく、実話教材はショックが強すぎるため、「少しマイルドにしたフィクションで戦争について考えるきっかけを作りたい」と『あの花…』を書き始めた。
平和教育の理想について、汐見さんは「今の子供たちに響く工夫ができれば理想的」とし、動画の有効性を挙げる。親世代が関心を持つことも大切だという。「戦争の記憶をしっかり伝える努力をすれば、受け取ってくれる子供たちはいます。そんなに悲観することはないと思います」と締めくくった。



