愛知県在住のミステリー作家・越尾圭さんが、書店で手に取った本を紹介するこのコーナー。9月に入っても暑さが続く中、今回は少しでも涼しい気分になれる、ぞっとする3作品をセレクトしました。「怖い」といってもその形はさまざまで、日常に潜む不穏さ、怪異の気配、現代社会ならではの恐怖が味わえます。
『怖い客』――身近な存在だからこそ不気味
まずは『怖い客』(矢樹純著/PHP研究所)。洋菓子店で長時間ショーケースの前に立ち続け、毎回1点だけ買っていく女性や、コールセンターに何度もクレームを入れてくる男性など、さまざまな店やサービスの現場に現れる「客」たちを描いた短編ミステリーです。
不可解な言動の理由を追っていくうちに「そういうことだったのか」と腑に落ちたかと思えば、その先でもう一度ぞくりとさせられるのが本作の面白さ。表紙のインパクトと相まって、すぐ隣にいそうな人間だからこその怖さが強く感じられます。接客する側と客という身近な関係から、予想もしない方向へ転がっていく一編一編を楽しめます。
『昭和奇譚 窓辺の怪物』――懐かしさの中に忍び寄る異様
続いて『昭和奇譚 窓辺の怪物』(清水カルマ著/青泉社)。昭和49年、関西の田舎町が舞台。小学3年生のマモルは、寝たきりの美しい姉・サリエを「怪物」と囃し立てるクラスメートたちに何も言えず胸を痛め、自身もいじめられる境遇に苦しんでいます。そんな町で猟奇的な連続首なし殺人が発生し、マモルの周囲の人々も次々と犠牲になっていきます。
古びた町並み、うわさ話、謎めいた腹話術師――。当時の文化や流行も固有名詞で随所に登場し、昭和という時代の懐かしさを感じさせます。その懐かしい風景の中に、じわじわと異様なものが入り込んでくる感覚がたまりません。恐ろしい事件の行方を追ううち、物語はマモルとサリエの姉弟の絆へ。怖さだけでは終わらない、切なさも胸に残る感動ホラーです。
『【NEW!!】あなたが出品されました』――スマホがもたらす現代の恐怖
最後は『【NEW!!】あなたが出品されました』(狂実著/スターツ出版)。女子大生のミナミがフリマアプリで偶然見つけたのは、自室から盗まれたはずの自分の口紅。しかも出品者の「M氏」は、その後も彼女の私物を意味深な説明文とともに次々と出品していきます。いったい誰が、何のために――。
スマートフォンひとつで誰もが売り買いできる身近なサービスが、じわじわと逃げ場のない恐怖へ変わっていく感覚がなんとも不気味。出品がエスカレートするにつれてミナミ自身の秘密も暴かれ、物語は思いもよらない方向へ。モキュメンタリーの仕掛けも相まって、画面の向こう側に潜む悪意が生々しく迫ってくる現代ホラーです。
今回は、人間の怖さ、昭和の怪異、そして現代ならではの恐怖と、異なる「怖さ」を味わえる3作を紹介しました。まだまだ暑さの残る季節、少し背筋がひんやりする読書で涼を感じてみてはいかがでしょうか。次回の更新もお楽しみに。



