集団本能の病理と処方箋『分断と排除の人類史』書評
集団本能の病理と処方箋『分断と排除の人類史』書評

進化人類学者デイヴィッド・サムソン氏による『分断と排除の人類史』(赤根洋子訳、新潮社・4180円)は、人類が他の種を圧倒して繁栄を実現できた要因として、知能の高さに加えて、集団を形成し「集合知」を有効に活用できたことを挙げる。一方で、この能力の暴走が戦争、差別、分断、環境破壊といった負の影響をもたらしてきたと指摘する。

「トライバリズム」の病理と現代社会

本書は「トライバリズム」という、血縁を超えて集団を作る人類の本能に焦点を当て、集団本能の病理と、それが引き起こしてきた問題を解き明かし、克服するための「処方箋」を提示する。著者は進化人類学者で、「トライバリズム」は人類学用語だ。「部族主義」と訳されることもあるが、前近代的なイメージを避けるため、本書では「トライバリズム」という用語をそのまま使用している。

現代におけるトライバリズムは、親族や集落レベルで形成されるものではなく、思想・宗教・信念・利害関係の共有によって形成される。本書の肝も、前近代から現代に至る共通要素を読み解いているところにある。

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原題が示す未来への処方箋

日本語の表題は否定的なニュアンスが強いが、原題は「トライバリズムの未来:人間の本能を善の力に向かわせる方法」とでもいうものだ。著者はトライバリズムを否定するのではなく、小規模で顔が見えるトライブ(集団)を再構築すること、より大きな「メタトライブ」を形成することで、現代の諸問題の解決策を模索する。実現可能性は未知数だが、現実的な処方箋と言える。

日本への適用には読者の「翻訳」が必要

普遍性の高い論考で、当然、現代の日本にも当てはまるのだが、本書で使われている用語や紹介されている事例は、日本人には馴染みにくい。日本の実情に当てはめて理解するには、読者の頭の中で「翻訳」を行う必要がある。難儀な作業ではあるが、有用な知的活動となることは間違いない。

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