第178回芥川賞(日本文学振興会主催)と直木賞の受賞作が7月19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で発表された。芥川賞は鈴木結生さん(29)の「ゲーテはすべてを言った」(『新潮』6月号掲載)が選ばれ、直木賞は伊与原新さん(52)の「藍を継ぐ海」(KADOKAWA刊)が受賞した。両賞とも受賞作1作ずつの選出となり、芥川賞の候補5作、直木賞の候補5作からそれぞれ決定した。
芥川賞受賞作「ゲーテはすべてを言った」
鈴木結生さんの「ゲーテはすべてを言った」は、ドイツの文豪ゲーテの文学作品を題材に、翻訳や解釈をめぐる知的冒険を描いた異色作。選考委員からは「言葉と世界の関係を深く掘り下げた意欲作」と評価された。鈴木さんは東北大学大学院文学研究科在学中で、ドイツ文学を専攻。受賞会見で「ゲーテの言葉の重みを現代にどう伝えるか模索した」と語った。鈴木さんは29歳での受賞で、芥川賞の歴史でも若手の部類に入る。
選考委員の一人は「作品は難解だが、読む者に知的な刺激を与える。ゲーテの引用も巧みで、著者の学識が光る」とコメント。一方で「もう少し読みやすさがあれば」との指摘もあったが、全体としては高い評価で一致した。受賞作は『新潮』に掲載され、単行本は新潮社から7月下旬に刊行予定。
直木賞受賞作「藍を継ぐ海」
伊与原新さんの「藍を継ぐ海」は、藍染めの伝統技術を継承する職人たちの姿を描いた長編小説。舞台は徳島県の藍染め産地で、職人の葛藤や家族の絆を温かく描き出している。選考委員からは「職人技の描写が細やかで、読み応えがある」と絶賛された。伊与原さんはこれまでに『宙(そら)わたる教室』などで知られ、直木賞は初受賞。受賞会見で「藍染めの世界を多くの人に知ってもらいたいという思いで書いた」と語った。
直木賞の選考では、候補5作の中でも「藍を継ぐ海」が最も票を集めた。ある選考委員は「伝統工芸をテーマにしながら、現代社会の問題にも触れており、バランスの良い作品」と評価。伊与原さんは「この賞を励みに、さらに良い作品を書きたい」と抱負を述べた。同書はKADOKAWAから刊行中で、受賞を機に増刷が決定している。
選考過程と今後の展開
芥川賞と直木賞の選考は、それぞれ10人前後の選考委員による合議制で行われた。芥川賞は第1回投票で鈴木作品が過半数を獲得し、即決に近い形で決定。直木賞も第1回投票で伊与原作品が多数の支持を集め、2回目の投票で正式決定した。両賞とも受賞作1作のみで、該当作なしや複数受賞はなかった。
受賞作は書店で販売中で、両作品とも売り上げが急増している。特に「藍を継ぐ海」は、徳島県の藍染め産業への関心も高めており、地元からは観光誘致への期待の声も上がっている。また、鈴木さんの「ゲーテはすべてを言った」は、ドイツ文学ファンだけでなく、幅広い読者層から注目を集めている。
次回の第179回芥川賞・直木賞は、2026年1月に発表予定。今回の受賞作が今後の文学界に与える影響が期待される。



