歴史学者・本郷和人氏が語る「うまい生き方」の真髄
東京大学史料編纂所の前教授であり、古文書や日記を年代ごとに整理した史料集「大日本史料」の編纂に長年携わってきた本郷和人氏。この春、定年を迎えた同氏が、自身の「うまい生き方」について語ったインタビューが注目を集めている。
史料編纂と歴史発信の二つの使命
本郷氏は1901年から刊行が始まった「大日本史料」の編纂作業に従事し、古文書などの一次史料を徹底的に分析。従来の通説を覆す人物像の再構築に取り組んできた。その一方で、テレビ番組などにも出演し、わかりやすい口調で歴史を解説する「ヒストリカル・コミュニケーター」としても活躍。学術研究と一般への発信を両立させる稀有な存在として知られている。
「無用者の系譜」との出会いと葛藤
高校時代に哲学者・唐木順三の著書「無用者の系譜」を読んだことが、本郷氏の人生観に大きな影響を与えた。同書では、平安時代の貴族で歌人の在原業平をモデルに、社会の役に立たない「無用者」こそが自由に生きる理想像であると論じられている。本郷氏は当時、官僚やビジネスマンとしての競争社会に違和感を覚えており、この思想に深く共感したという。
「その男、身をえうなきものに思ひなして」という「伊勢物語」の一節が示すように、在原業平は政治的には不遇ながらも、恋や歌に生きた人生を送った。本郷氏はこうした生き方に憧れつつも、歴史学者としての使命感から「無用者」にはなりきれなかったと振り返る。
史料編纂への情熱と現代へのメッセージ
本郷氏は、史料編纂の仕事を「歴史の真実を後世に伝える重要な責務」と位置づけ、一次史料に基づく実証的研究の重要性を強調。その上で、研究成果を一般にわかりやすく発信することも、現代社会における歴史学者の役割だと語る。
定年を迎えた今も、研究と発信を続ける本郷氏。競争社会から距離を置きつつ、自らの使命を全うする「うまい生き方」は、多くの人々に生き方のヒントを与えている。歴史学者としての厳格な姿勢と、柔軟な発信力を兼ね備えたその姿は、学問と社会をつなぐ架け橋としての可能性を示している。



