東京大空襲から81年、新たな継承者が記憶を語り継ぐ
一夜で10万人もの尊い命が失われたとされる1945年の東京大空襲から、2026年3月で81年の歳月が流れようとしています。この歴史的惨劇を後世に伝えるため、東京都江東区にある民間博物館「東京大空襲・戦災資料センター」では、新たな動きが活発化しています。高齢化が進む空襲体験者に代わり、戦争を直接経験していない世代が記憶を継承する「継承者」が本年度、5人新たに誕生しました。オンラインを活用した遠隔講話や手作りの紙芝居、英語での説明など、伝え方も多様に広がりを見せています。
オンラインで繋がる記憶の継承
2月28日、同センターで行われた継承講話では、名古屋市からオンラインで参加した会社員の丸谷裕子さん(42)が、兄と祖母を空襲で亡くした葉山美佐子さんの体験を語りました。画面には火の海を逃れた当時のルート図と現在の現地写真が映し出され、臨場感あふれる説明が続きます。丸谷さんは昨年まで江東区に居住していましたが、転勤を機に遠隔での伝承に挑戦。修了証を画面越しに受け取るしぐさを交えながら、「オンラインには大きな可能性を感じました。センター以外の場所からも、東京大空襲の事実を広く知ってもらう機会を増やせるかもしれません」と語りました。
育成プログラムの充実と継承者の多様性
同センターでは2021年度から継承者育成の検討を開始し、広島などの先進事例を参考にプログラムを構築。2022年度には学芸員の小薗崇明さん(47)とボランティアガイドの早川則男さん(68)が最初の継承者となり、2023年度から本格的な育成プログラムがスタートしました。全12回の研修では、体験者との現地歩きや関連書籍の読書感想文の作成など、戦争の全体像を理解した上で語れるよう体系的な教育が行われています。
研修は参加者の仕事や体験者の体調に配慮し、当初の1年計画から2年半に延長。昨年8月に3人、先月28日に2人が修了し、既存の2人と合わせて計7人の継承者が活動を開始しました。育成リーダーを務める小薗学芸員は「月1度の定例講話を2度に増やしたり、修学旅行生への語りを継承者に任せたりできるかもしれません」と手応えを語ります。
多彩な伝え方で記憶を紡ぐ
新たな継承者たちはそれぞれ独自の手法で記憶を伝えています。東京都墨田区の会社員・関隆史さん(58)は、空襲で家族を失い孤児となった鈴木賀子さんの体験を、本人の肉声が収録された動画を交えて語ります。「本人が映った画面や実際の声がある方が、内容がより深く伝わると考えました」と関さんは説明します。
一方、東京都江東区の小学校職員・尾辻美枝さん(50代)は手作りの紙芝居を活用。「子どもたちも興味を持って聞いてくれます。戦争の恐ろしさを知る入り口になれば」と願いを込めます。最初の継承者である早川さんは英語教諭の経験を活かし、訪日外国人客に向けた英語での講話にも取り組んでいます。
継承者の心得と今後の課題
小薗学芸員は継承者たちに以下の5つの心得を伝えています。
- 体験者の思いや心に寄り添って話を聴くこと
- 体験に関わる場所を実際に歩いて理解を深めること
- 発表内容は学術的に検討すること
- 内容を何度も修正することをいとわないこと
- 自分の思いをそっと添えること
「これらの原則を守れば、伝え方は自由です」と小薗さんは強調します。
一方で、空襲を直接経験していない継承者が質疑応答にどこまで対応できるかという課題も残ります。吉田裕館長は「体験者に依存した継承が難しくなる時代に向け、基礎は整ってきたと感じます。軌道修正を繰り返しながら、状況がしっかり伝わるよう内容を高めていきたい」と語り、継承活動のさらなる発展に期待を寄せています。
東京大空襲から81年。戦争の記憶が風化しようとする中、新たな世代が多様な手法で惨劇を語り継ぐ取り組みは、平和の尊さを考える貴重な機会を提供し続けています。



