鳥取の歴史に隠された「10の謎」を追う根平雄一郎さんの情熱
鳥取県境港市に住む根平雄一郎さん(77歳)は、伯耆文化研究会の会長として、地元の歴史にまつわる「10の謎」を独自の視点で調査し続けている。漫画家水木しげるさんが幼少期に影響を受けた「のんのんばあ」のルーツや、1300年前に大山寺を開いた金蓮上人と人気俳優との意外な関係など、ユニークなテーマを扱い、県内外で講演会を開催している。
科学少年から歴史探求者へ
根平さんは少年時代から科学に興味を持ち、昆虫や植物、化石の採集を楽しんでいた。中学や高校では科学部に所属し、後に社会科が得意になったことから、島根大学教育学部に進学して中学校の社会科教諭となった。しかし、当時は公民や地理を好み、歴史は苦手だったという。
戦災記録活動が転機に
大きな転機となったのは、30代の時に参加した戦災記録の活動だった。当時、鳥取県内には戦災の記録がほとんどなく、教職員の有志や郷土史家らと共に、関係者の証言を集めるプロジェクトに携わった。根平さんは他の教員2人と境港地区を担当し、1945年に発生した玉栄丸の爆発事故を調査した。
この事故は、境港に入港中だった船に積まれた軍需物資の火薬が引火して爆発し、429人以上が死傷した山陰地方最大の戦災である。授業のない土日や夏休みを利用し、関係者や遺族を訪ねてテープレコーダーで録音を続け、約100人分の証言を集めた。これらの証言は1982年に1冊の本にまとめられ、貴重な記録として残されている。
玉栄丸の謎と平和の尊さ
根平さんは、玉栄丸の調査をライフワークと位置づけ、2007年には市の教育長を務めていた際に、「兵隊が投げ捨てたたばこが爆発の原因だった」とする新たな証言も得た。彼は「玉栄丸は『10の謎』の筆頭格で、今も多くの謎が残る一方、新証言が次々と出てくる。平和の尊さを伝えるためにも、悲しい事件の真相を今後も追いたい」と語る。
幻の夜見ヶ浜人骨の発見
2024年春には、「10の謎」の一つである「幻の夜見ヶ浜人の追跡」が注目を集めた。夜見ヶ浜人は、1969年に境港市の工事現場で発見され、早稲田大学の直良信夫教授が「旧石器時代の女性の左あご」と鑑定した人骨の化石だ。しかし、発見後の調査過程で所在が分からなくなり、「幻」と呼ばれていた。
根平さんは2006年に鳥取大学教授の講演で夜見ヶ浜人の存在を知り、2011年から独自調査を開始。図書館で文献を調べたり、当時の研究者らに接触を試みたが、有力な手がかりは得られなかった。しかし、2024年4月16日夕方、早稲田大学の教授から連絡があり、歴代教授が残していた研究室の段ボール箱の中から人骨が発見されたという吉報が寄せられた。
根平さんは「跳び上がって喜んだ」と振り返り、3日後に上京してケースの中で白い綿にくるまれた人骨と初対面した。現在、この人骨は東京大学総合研究博物館の教授を中心に、年代測定やDNA分析が進められている。
歴史的発見の意義
本州は骨を溶かす酸性の土壌が多く、旧石器時代の人骨が見つかることは極めて珍しい。これまで浜松市の石灰岩地帯で発見された「浜北人」しか例がなく、夜見ヶ浜人が2例目となる可能性や、さらに古い骨であるかどうかに注目が集まっている。根平さんは「『日本人がどこから来たのか』をたどるヒントになるかもしれないと、幻の骨を捜し続けてきた。結果を楽しみにしている」と語る。
彼の活動は、鳥取の歴史を深く掘り下げ、新たな発見を通じて地域の文化遺産を守り伝える重要な役割を果たしている。自宅の書斎で「10の謎」の活動を振り返る根平さんの情熱は、今後も多くの人々に歴史の魅力を伝えていくことだろう。



