東京の春を彩る伝統行事 荒川区・品川区・調布市で3月に開催される祈りの祭り
3月は「花咲月」とも呼ばれ、長い冬が終わりを告げ、生命の鼓動が湧き上がる新しい季節の訪れを感じさせる時期です。新年度を控えた区切りの時節でもあり、暮らしの中では別れと始まりが交差し、気持ちを整えたくなる季節でもあります。役目を終えた縁起物を納め、新たな願いを込めて祈る3月にふさわしい祭りや神事が、東京の各地で受け継がれています。
澄んだ空気の中を歩けば、街角の小さな社や寺にも、春を迎える準備の気配が漂っています。それぞれの行事には、地域の歴史と人々の祈りが込められており、訪れる者に静かな感動を与えてくれるでしょう。
納めて授かる新春の縁起市 深大寺だるま市(調布市)
深大寺のだるま市は、3月の東京を代表する風物詩のひとつです。七転び八起きの縁起だるまで賑わうこの市は「日本三大だるま市の一つ」ともされ、江戸時代から続く行事として親しまれてきました。
深大寺周辺ではかつて養蚕が盛んであり、だるまが蚕の繭に似ていることから縁起物として売られたのが、深大寺のだるま市の始まりと伝えられています。境内および山門周辺には300余りの縁起だるま店がずらりと並び、だるまを求める参拝者の熱気で空気が少しだけ温まるような一日となります。
購入しただるまや納めるだるまを元三大師堂前に持参すると、僧侶が目入れをしてくれるのも楽しみのひとつです。梵字の目入れは全国でも深大寺のみの風習であり、物事の始まりを表す梵字の「阿」を左目に、願いが成就して納め所に納めるだるまには、物事の成就を表す「吽」を右目に入れます。願いが“始まり”から“結び”へ向かう、その道筋まで含めて祈りの形になっているのが、深大寺らしい美しさです。
開催日時は3月3日(火)と4日(水)の二日間で、京王線・調布駅やJR三鷹駅からバスで約20分のアクセスとなります。当日は周辺で交通規制も入るため、時間に余裕を持って向かうことが安心です。
桃の節供のしつらえに春を知る 素盞雄神社桃まつり(荒川区)
下町の空気を残す素盞雄神社で、春の楽しみとして親しまれているのが、2月下旬から4月上旬にかけて開催される桃まつりです。紅白の桃花が境内にほころぶ頃、氏子や崇敬者から奉納された雛人形が、境内の神楽殿などに飾られ、桃の節供らしい華やぎが広がります。
素盞雄神社で大切に保管される数千体の雛人形の、一年に一度の晴れ舞台には荘厳な美しさがあります。神楽殿に並ぶ雛飾りは凛とした佇まいで参拝者を迎え、春の光に包まれた雛飾りが、節供の華やぎを静かに伝えます。
素盞雄神社の御創建日である4月8日には、災厄除けを願う「疫神祭」が斎行され、白い花をつけた桃の枝で「四方鎮の儀」と呼ばれる祓いを行い、桃の木片を燻した煙と香りで四方を清める神事が行われます。
また、江戸の頃より伝わる災厄除けの「白桃樹御守」もこの時期にのみ授与される特別なお守りです。お守りの裏面に自身の名前を書き込み、身につけたり神棚に納めることで、身にふりかかる災厄を祓うとされています。4月1日から8日までの期間のみ、境内の参集殿の授与所で頒布されます。
アクセスはJR・東京メトロ日比谷線・南千住駅から徒歩約8分、つくばエクスプレス・南千住駅や京成線・千住大橋駅からも同様の距離です。
台所の神様に感謝と願いを重ねて 海雲寺千躰荒神春季大祭(品川区)
京急・青物横丁駅近くの海雲寺で、毎年3月27日と28日に行われるのが千躰荒神春季大祭です。かまどの神様・台所の守護神として信仰を集める千躰荒神の秘仏「千躰三宝大荒神王」は、大祭時のみ御開帳され拝むことができます。
護摩堂では朝から夕方まで護摩修行が行われ、持参した厨子やお札を護摩の炎で炙ることで、荒神様のお加持を授かります。太鼓の音と読経が重なり、立ちのぼる護摩火の揺らめきは、場の空気を引き締め心の煤まで祓われていくようです。
護摩木に願いを書き、家内安全や商売繁盛を託す人も多く、古いお札を納めて新しいお札やお守りを受ければ、一年の台所安全も整います。境内には露店が並び、参拝の帰り道の楽しみは、穀物を砕いて甘いシロップで釜の形に固めた名物菓子の「釜おこし」です。お釜の形に“釜を興す=家が栄える”の願いを込めた縁起菓子をかじりながら、香ばしい煙の匂いまで連れて帰りたくなります。
参拝後の帰り道では寄り道をしてはいけないとされているので注意が必要です。アクセスは京浜急行電鉄本線・青物横丁駅から徒歩約4分、東京臨海高速鉄道りんかい線・品川シーサイド駅からは徒歩約10分です。
芽吹きはじめた小さな春を探しながら、東京で行われる節目の祈りの風景を訪ねてみてはいかがでしょうか。それぞれの行事には、地域の歴史と人々の深い信仰が息づいており、春の訪れを心から祝う気持ちにさせてくれるでしょう。



