一筆書きの一発勝負 29歳の若き担い手が大垣まつりで大役
からくりが器用に筆を動かし、額持ちの人形が抱えた紙に、「大垣まつり」や「菅原軕」などと見事な文字を書き上げる。岐阜県大垣市新町の菅原軕に伝わる文字書きからくり。2026年の本楽での披露を初めて担当するのが、矢田達也さん(29)である。
無形文化遺産登録10周年 伝統を未来へつなぐ若き力
城下町に初夏の訪れを告げる大垣まつりは、370年以上の歴史を誇る。2016年12月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されてから、今年で10周年を迎えた。伝統を受け継ぎ、未来へつなぐ取り組みが各町で進められている。
文字書きからくりは、約2メートル下の軕内から操作する。一筆で書き上げることが特徴で、紙との距離感や筆圧など熟練した技術が求められる極めて難しい技だ。これまでは30年近い経験を持つベテランが担ってきたが、矢田さんはからくりを扱って15年という「異例の若さ」でこの大事な役目を任された。
祭りと共に育ち 研究者としても祭礼を分析
矢田さんは0歳から祭りの練習場所に連れていかれ、幼少期には太鼓や笛を演奏するなど、祭りと共に育ってきた。「物心付いたときからまつりがある。珍しいという感覚はない」と語る。専門学校の教員を経て、現在は名古屋大学大学院で都市祭礼を研究している。
大垣まつりを研究対象としても捉える矢田さんは、「時の領主からいただいた軕を大事に温存する例は日本で大垣だけ」と、その歴史的・文化的な珍しさを説明する。新町は、大垣藩主戸田氏西から授けられた三両軕の一つ、神楽軕も3町持ち回りで担当している。
3年に一度、二つの軕を動かすのは負担が大きいはずだが、「自分もみんなも楽しみにしているのが不思議」と語り、研究者の目で見ても、祭りは「町民にとって生きがいであり宝物になっている」と分析する。
町の仲間たちに支えられ 16年目の挑戦
その魅力を支えているのが、町の仲間たちだ。異なる年代が集まり、「会社の同期とも友人とも違う新しいジャンル」と感じている。それぞれが祭りへのこだわりがあるからこそ、言い争いもあるという。しかし、練習後の飲み会で昔話を聞いたり、軕という宝物を背負って町を練り歩いたりする時間は「家族以上の仲間と感じる瞬間」だと語る。
文字書きからくりを操作するようになったのは16年前。当時の町内代表から「やってみないか」と言われたことがきっかけだった。矢田さんが幼少期の頃から笛などを教えてきた坂仁成さん(54)は「黙々と練習するタイプで上達も早く、まつりに携わりたいという気持ちが強く見えた」と評価する。
最高のものを神様に 自覚を持って練習に励む
間違えると「字で分かる」という一筆書きの一発勝負。矢田さんは「自覚を持って練習に励み、最高のものを神様にお見せする」と意気込みを語る。ユネスコ無形文化遺産登録10周年という節目の年に、若き担い手が伝統の技を披露する瞬間が注目される。
大垣まつりは、歴史的な価値とともに、町民の結束と情熱によって支えられてきた。矢田達也さんの挑戦は、370年以上続く伝統が新たな世代へと確実に受け継がれている証でもある。



