麻布十番商店街での運命的な出会い
麻布十番という地名を初めて耳にしたのは、いつの頃だっただろうか。テレビで石田純一さんを見ながら、一番から九番まではどこにあるのだろうと不思議に思っていた記憶がある。それほどまでに、私にとって麻布十番は遠い存在だった。
大学生時代の初訪問
初めて足を踏み入れたのは大学生の時である。高速道路の向こう側でオレンジ色に輝く東京タワーを眺めながら、麻布十番商店街へと入っていった。香ばしいタレと煙の香りが漂い、目を凝らすと「焼きとん」と書かれた看板が見える。趣のあるたい焼き屋や豆菓子屋が並び、下町の雰囲気を残しながらも洗練された空気が漂っていた。
入ったお店の中も、皆おしゃれでワクワクするような場所だった。その雰囲気にすっかり酔いしれ、ふわふわとした気分でトイレに向かうと、洗面台の前に中森明菜さんが立っていた。信じられない光景だった。私にとって、神と太陽と北極星を全て合わせても足りないほど大切な存在。幼少期の支えとなっていた人が、目の前にいる。
思わず差し出した両手
頭の中が真っ白になったまま、気が付くと話しかけていた。「すみません、こんな場所で突然で本当に失礼だと思うんですけど、あの、でも、握手をしていただけないでしょうか…」。最悪な状況だと頭の隅で叫びながらも、両手を差し出していた。
明菜さんは「はい」と細い手でしっかり握り返してくれた。にっこりとしたあの笑顔、あの声で。全身が震えるほどドキドキしながら見送った後、自分を責め落ち込んだが、同時に明菜さんに会えた記憶を何度もめでた。
30年越しの思い
中森明菜様。未熟な学生の手を握ってくださって、本当にありがとうございました。30年の歳月が経ってしまいましたが、心からおわびとお礼を申し上げます。あの日の感動は今も鮮明に記憶に刻まれている。
麻布十番商店街から望む東京タワーの光景と、明菜さんとの出会いは、私の東京物語の中で特別な一章となった。下町の風情と都会の洗練が調和するこの街で、一生忘れられない瞬間を経験することができた。



