フェルメール初期作の偽署名に隠された歴史の謎
オランダの巨匠、ヨハネス・フェルメール(1632~75年)の最初期の作品である「ディアナとニンフたち」(1653~54年ごろ)が、この夏、代表作「真珠の耳飾りの少女」(1665年ごろ)と共に大阪で公開される。両作品はいずれもマウリッツハイス美術館(オランダ・ハーグ)の所蔵品であり、日本での同時展示は極めて稀な機会となる。
19世紀末まで別の画家の署名が記されていた作品
興味深いことに、「ディアナとニンフたち」は19世紀末まで、フェルメール自身の署名ではなく、別の画家の署名が記されていた。この作品が1876年にパリで競売にかけられた際、そこには「ニコラース・マース」という名前が記されていたのである。マースは1634年生まれ、1693年没のオランダ画家で、フェルメールとほぼ同世代にあたる。
調査の結果、この作品には元来フェルメールの署名が存在していたが、その上からマースの署名が重ねて記されていたことが判明している。なぜこのような偽の署名が施されるに至ったのか、その背景には当時の美術市場や作品評価をめぐる複雑な事情が存在していたと考えられる。
20代前半のフェルメールが描いた神話画
「ディアナとニンフたち」は、フェルメールが20代前半で手がけた作品である。フェルメールは後に室内画や風俗画で名を馳せるが、この初期作品はローマ神話の女神ディアナとニンフたちを題材とした神話画となっている。若きフェルメールがどのように絵画と向き合い、技術を磨いていったのか、その過程を窺い知る貴重な作例と言える。
神戸大学大学院の宮下規久朗氏をはじめとする専門家は、この作品の様式的特徴や筆致を詳細に分析。偽署名が施された経緯だけでなく、フェルメールの芸術的成長の軌跡を解明しようと試みている。作品が後世に誤った帰属を与えられたことは、フェルメールの認知度や評価が時代によって大きく変遷したことを物語っている。
大阪での公開が決定した2作品
今夏の大阪での展示では、「ディアナとニンフたち」と「真珠の耳飾りの少女」の2点が並んで公開される予定である。「真珠の耳飾りの少女」は、かつてわずか1万フランで落札されたという数奇な運命を辿り、現在では世界的な知名度を誇る肖像画となった。
両作品を比較することで、フェルメールの画風の変遷や、彼がどのように独自の表現を確立していったのかをより深く理解できる機会となるだろう。美術ファンにとっては、フェルメールの芸術の全容に触れる絶好のチャンスと言える。
偽署名という歴史的エピソードを持つ「ディアナとニンフたち」の展示は、単なる美術展を超え、作品の真実性や芸術的価値がどのように構築されてきたのかを問いかけるものとなる。フェルメール研究における新たな知見も期待され、関西の文化シーンに大きな注目が集まっている。



