モンゴル人の仕事観から、日本の働き方を見つめ直す連載「ニッポンを“職場”に選んだら」が始まった。今回はモンゴルを取り上げる。広大な草原で暮らす遊牧民やゲルを思い浮かべる人が多いだろう。元JICAビジネス交流支援専門家で、モンゴルの就職事情に詳しい中嶋俊一氏に話を聞いた。
遊牧民文化が仕事観にも影響
日本とモンゴルでは、仕事の進め方や価値観にどのような違いがあるのか。中嶋氏は「日本人とモンゴル人はかなり対極にいる存在だと思っています。根源にあるのは、モンゴル人の遊牧民文化と、日本人の稲作文化の違いです」と語る。
モンゴル人は、簡単に言えば「その時その時を一生懸命生きる」という感覚がある。明日の天候で死ぬかもしれない、あしたの川から落ちて死ぬかもしれない。そういう環境では、日本のように長期的な視点を持って生活することが必ずしも合理的ではないという。
日本では仕事をして「2年後、3年後はどうなるか」と長期的に考えるではないか。そこが根本的に違うのかなと感じている。もちろん今のモンゴルでは都市化が進み、首都ウランバートルで育った若い人の中には馬に乗ったことがない人も増えている。それでもGDPに占める牧畜業の割合は鉱業に次ぐ11%(2025年、JICA)、労働者の約3割が従事している。遊牧生活は今もモンゴル人の根底に残っている。
「ボスの言うことは絶対」という文化
モンゴルは上下関係が徹底していて、日本よりかなり厳しいところがある。「ボスの言うことは絶対」という文化だ。ボスがイエスと言えばイエス、ノーと言えばノー。だから決断はすごく早い。一方で、ボスがいないと判断できないということもある。
例えば、モンゴルの人々は夏に長期休暇を取る。夏に社長が1カ月くらいバカンスに行ってしまって「社長がいないので1カ月決裁できません」ということもある。日本の会社ではなかなか考えにくい。
リーダーの上司像にも違いがある。モンゴルでは「お母さん」のような上司が理想だ。「これをやりなさい」と細かく指示を出して、間違ったら「私が責任を取る」というタイプだ。日本では、部下の意見を聞いてまとめる「調整」のような上司が好まれるではないか。だが、モンゴルで同じことをすると「この人は自分に能力がないから、部下に聞いているのか」と思われる可能性がある。特に役所などでは、そういう傾向が残っている。
ワークライフバランスと余暇の考え方
ワークライフバランスや余暇についての考え方はどうか。モンゴルはやはり、家族が一番なのだ。遊牧生活では、草原にゲルがポツンとあって、そこで家族と暮らしている。10キロ、20キロ先どころか、100キロ圏内に誰もいないということもある。そういう生活では、家族が中心になるのは自然なことだ。
だから「余暇を重視しますか」と聞かれたら、余暇そのものよりも「家族と一緒にいることを重視する」というイメージが強い。例えば自営業の人なら、お母さんの出張に家族がついていくことも珍しくない。公務員もOKなのだ。
モンゴルの人口は約359万人(2025年、モンゴル国家統計局)。鉱業や牧畜業、流通業などを主要な産業とし、1990年代初頭の民主化以降、順調に経済成長を遂げ、直近2025年の成長率は6.8%と調査に移行する。ICT産業も伸びており、首都ウランバートル市では、AIやフィンテックなどの分野でスタートアップが台頭。政府も「デジタルファースト」を掲げ、行政サービスの電子化などに力を入れている。
日本語の学習熱が高く、人口あたりの日本語への留学性の割合が世界トップレベルといわれるモンゴル。人手不足が課題となる日本では、日本語にも精通したモンゴル人材への関心が高まっている。